大学生と考えるマテックスのマテリアリティの特定①

マテックス学生対話会1日目集合写真

窓の専門商社マテックス(東京・池袋)はサステナビリティ対応に真摯に取組む会社。今回は同社が重点課題(マテリアリティ)を特定していく過程でステークホルダーにヒアリングした模様を紹介する。ヒアリングした相手は大学生たち。

さて、なぜ大学生たちなのか?

(本記事はcokiでも掲載されています)

マテリアリティの特定に大学生の意見を取り入れる背景

マテックスは2028年に100周年を迎える長寿企業。長寿企業は一般企業と比べて、多様なステークホルダーとの互恵関係を重視する経営を行う企業が多い。

マテックスもまた、サステナビリティ経営に長年注力してきた会社であり、サステナビリティレポートを作成するにあたって、今回マテリアリティの特定を行うことにしたそうだ。その過程で、対話を行う相手のステークホルダーとして、でてきたのが大学生たち。社員や取引先以外にも、せっかくなら自社の長期的視点からも未来にステークホルダーとなりうる大学生たちの意見も聞きたいという考えからの発案だった。

そのため、まずSDGsなどの国際的なガイドラインの要求項目を参考にリストアップし、重要度を社内で検証したうえで、大学生をはじめとした多様なステークホルダーとの対話から客観的な視点を取り入れることに。そのうえで、事業モデルや事業環境に即して重点課題を抽出し、マテリアリティとして特定しようという流れをとった。

マテックス マテリアリティ特定プロセス
マテックス マテリアリティ特定プロセス

マテックスの取組みを通して学べること

加藤 俊

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 週刊エコノミスト 『SDGs最前線』 日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

マテックスの今回の取組みを通して学べることは、長寿企業ならではの長期的な視点だと思います。

ステークホルダーを大切にする経営を実践するためにも、未来世代というステークホルダーである学生達もまた大切なステークホルダーと考え、意見を取り入れる様は、多くの企業にとって参考となるのではないでしょうか。

また、マテックスは非上場の会社です。任意開示について、株主やESG評価機関などの声を過度に気にする必要はありません。そのため、マテリアリティの表現の仕方については、社員一人ひとりに深く理解してもらうことを優先することができました。おかげで、マテックスならではの文化を体現する独自の言語を活用することができました。

※マテックスについて詳しく知りたい方は、私が前に書いた、日経新聞のこちらの記事をお読みください。
建材卸売業のマテックス、自社の知見業界で共有

ヒアリングはダイアローグとして、2023年9月27日と10月2日の2日間をかけて大学生計10名の方々に集まってもらい、実施した。本記事は、その模様を紹介するもの。

議題のテーマはマテックスのマテリアリティにおける4つのキーワード。
この4つのキーワードは、SDGsなどの国際的なガイドラインの要求項目を参考にリストアップし、重要度を社内で検証したうえで、マテックスの取組みと解決すべき課題感をまとめ、落とし込んだものだ。

この4つのキーワードを元に大学生と対話会を展開した。

マテックス マテリアリティ 4つのキーワード
マテックスのマテリアリティ 

以降は2023年9月27日の対話会初日の内容をレポートする。

<対話会に参加した学生達>

※本記事における学部学年は取材当時のものです。

斎藤日向子さん(法政大学国際文化学部1年生)
斎藤 日向子さん(法政大学国際文化学部1年生)
藤田ももさん(法政大学グローバル教養学部1年生)
藤田 ももさん(法政大学グローバル教養学部1年生)
吉田麻衣さん(法政大学グローバル教養学部1年生)
吉田 麻衣さん(法政大学グローバル教養学部1年生)
齊藤 真尋さん(法政大学グローバル教養学部2年生)
齊藤 真尋さん(法政大学グローバル教養学部2年生)
森田 彩月さん(法政大学社会学部1年生)
森田 彩月さん(法政大学社会学部1年生)

トークテーマ:「自分ごと化」

最初に討論してもらったテーマは、「自分ごと化」。抽象的なテーマだが、例えばこんな事象に心当たりはないだろうか。

世の中で何らかの事件が起きるとする。連日メディアで報道され、世間が騒がしくなる。騒動の渦中、世間は「悪者」を探して糾弾する。ひとしきり騒がれたら事件は忘れ去られ、問題は解決されないまま、また別の事件が起きる。この社会で、そんなループが繰り返されている。

問題の本質はどこにあるだろう?社会課題の本質に触れるための第一歩は、事件を「他人ごと」で片づけるのではなく、できる限り「自分ごと化」してみることではないか。

マテックスでは、社会課題に対しても、また、仕事に取り組むうえでも、まずは起きている事象を「自分ごと化」して、自分を重ねて考えることを大事にしている。

「自分ごと化」というキーワードのイメージはつきますか?

齊藤真尋さん(法政大学グローバル教養学部2年生)対話会中の写真
齊藤 真尋さん(法政大学グローバル教養学部2年生)

斎藤 真尋(以下、斎藤(ま))

今「SDGsに力を入れてます」という企業が多いと思うのですが、「会社が動いてくれているから自分は別にいいや」ではなくて、自分個人でも考えるという意味なのかなと思いました。

斎藤 日向子(以下、斎藤(ひ))

そうですね。組織の上層部にいる人たちが取り組んでいることを「何かやってるな」と他人目線で見るのではなくて、自分も主体的に考えるってことなのかなと。

森田

自分にできることは小さいかもしれないけれど、「自分なら何ができるかな。できることからやってみよう」と前向きな姿勢を持つことで、その小さなことが大きな組織に波及していく、みたいなイメージを持ちました。

もしご自身がマテックスの社員だったら、「自分ごと化」というキーワードに関してどのようなことができると思いますか?

左:藤田ももさん(法政大学グローバル教養学部1年生)対話会中の写真
左:藤田ももさん(法政大学グローバル教養学部1年生)

藤田

SDGsで言うと「ジェンダー平等を実現しよう」につながることで、例えば職場で男性も育休をとれるように働きかけることなどは、SDGsが自分ごとになるきっかけかなと思いました。

森田

「窓を扱う企業」という点で言うと、脱炭素とか環境負荷の小さい素材を活用するとか、そういった課題について何ができるか、社員みんなで考えることが「自分ごと化」だと思います。また、例えば環境負荷の小さい素材を周辺地域の方々から提供してもらったりできれば、地域も巻き込んで横のつながりをつくることもできます。窓を通してできる環境活動について話し合える場を設けることも、自分ごと化のひとつかもしれません。

たしかに、環境問題を自分ごと化してみることで、長年慣習的に行ってきた「当たり前」を再考して、「地上にある素材を循環させる方法を探る」という発想も出てきますね。他にも、マテックスが「自分ごと化」をテーマとしたときに解決できそうな社会課題は思い浮かびますか?

斎藤(ひ)

特定の社会課題というよりかは、意識を変えることにつながると思います。

斎藤(ま)

SDGsの目標のひとつ「質の高い教育をみんなに」につながると思うのですが、今回の討論会のように、社会課題について学んだり考えたりする機会を提供することも、課題解決に直結すると感じています。

マテックス 松本代表の対話会中の写真
マテックス 松本代表

松本

ビジネスをしていると、ともすると近視眼的になってしまいます。特に競争にさらされていると、今月の数字、今週の数字、今日の数字と短期的な成果をあげたくなるものです。しかし企業にもやはり「長期的に考えてこうありたい」という将来像はもちろんあって、短期、中期、長期といろんなスパンで物事を捉える視点が、社会課題を対処する上で大事な視点なのだと思います。その視点を持ち続けるためにも、「自分ごと化」はマテックスの根底を流れる重要なキーワードです。

トークテーマ:「依(よりどころ)」

続いてのテーマは、「依(よりどころ)」。

「衣食住」は、生活の基礎となる3要素を表す、江戸時代の『浮世草子』に登場した言葉だ。社会構造が大きく変化した今の世において、この言葉の「衣」の部分を「依」に置き換えてみてはどうだろうか。

ファーストプレイスとしての家、セカンドプレイスとしての会社、そしてサードプレイスとなる「依(よりどころ)」。家と会社の往復から一歩外れたサードプレイスに、ほっと一息つける人間関係や、刺激を受け、成長を実感できるコミュニティが見いだせるかもしれない。

マテックスは、この「依(よりどころ)」こそが、心身の健康や良好な人間関係、社会とのつながりを感じられるウェルビーイングの鍵になると仮定し、サードプレイスとなる環境構築や機会創出に励んでいる。

「依(よりどころ)」という言葉のイメージはわきますか?

斎藤 日向子さん(法政大学国際文化学部1年生)の対話会中の写真
斎藤 日向子さん(法政大学国際文化学部1年生)

斎藤(ひ)

「サードプレイス」と捉えると、イメージしやすかったです。この言葉で連想したのが、不登校の課題です。不登校の子どもの教育面でも、いろんなところに居場所があることが大事で、それは小学生だけじゃなく大人にとってもきっとそう。大人のほうがむしろ、よりどころが少なくなるんじゃないかな。なので、重要なテーマだと強く共感しました。

吉田

わたしはまだ、「依(よりどころ)」の定義がよくわかりません。精神的なものなのか、身体的なものなのか、どんな環境を提供できれば「依(よりどころ)」といえるのか……

「依(よりどころ)」とは、「それがあるから安心できる」と思えるような、心の支えになる人、コミュニティ、時間だったり、「これがあるから頑張れる」と思えるような、元気や刺激をくれる場だったり。いろんな枠組みをこえて、越境型の学びや安らぎをくれるサードプレイスというイメージです。そんな「依(よりどころ)」というテーマで、マテックスが解決できそうな社会課題はありますか?

森田 彩月さん(法政大学社会学部1年生)の対話会中の写真
森田 彩月さん(法政大学社会学部1年生)

森田

問題を抱えているご家庭の、お子さんだけでなく親御さんにも支援を提供できるんじゃないでしょうか。ただ、それは自社の領域で余裕のある事業をできているからこそ、だとは思いますが。

藤田

私はどうも、「ファーストプレイス=家庭」「セカンドプレイス=職場」「サードプレイス=よりどころ」という捉え方がピンとこなくて……優先順位の話ではないのかもしれないけれど、1、2、3の順ではなく横並びならいいのになって。そうすれば、いわゆるワークライフバランスもうまくとれて、働く人のやる気や会社への忠誠心も上がるんじゃないかと。そういうバランスのとれた会社は、いい会社だと思います。

松本

サードプレイスというテーマは、「共創」というキーワードとも親和性の高いテーマです。社会課題の中には、自社が直接的に解決に乗り出せる領域のものもあれば、そうでないものもあります。なので、限界を感じるときには、他社や他団体、ときには自治体とも組んで、問題解決に取り組みます。そういう共創がやりやすい時代になっていると思いますし、この先ますます進むだろうと期待しています。

トークテーマ:「脱炭素」

2010年から自社のCO2排出量の数値化に着手したマテックス。製品の輸送プロセスの効率化などによって排出量削減に向けた努力を重ねた結果、例年右肩下がりでCO2排出量の削減に成功。2022年の排出量は630tまで抑えられた。

さらには、各家庭に断熱性の高い特殊な窓を普及させることで、年間3,000t弱のCO2削減に貢献している。通常、60~70%の熱の出入りは窓から生じる。これでは、冷暖房器具で室内を冷やしたり温めたりしても、穴のあいたバケツに水を注ぎ続けるようなもの。いくらクリーンなエネルギーを使って室内を温めたり冷やしたりしても、それが窓から漏れ出してしまっては、意味がない。

窓を扱う企業として、家庭における消費電力の削減に貢献する意義は大きい。

「脱炭素」というテーマ、みなさんは普段、意識することがありますか?

藤田

プラスチックを極力使わずに、紙ストローを使っている会社を選ぶとか、エコバッグを持ち歩くとか、小さなことですけどそういうスタンスは意識しています。最近はEVの話なんかも盛り上がっていて、意識にのぼるタイミングは多いと思います。

斎藤(ま)

私は常にエコバッグを持ち歩いているわけじゃないし、お店でも「ビニール袋ください」と言ってしまうタイプです。意識していることはしているけれど、自主的に脱炭素を意識して何かしたり、周囲に脱炭素に向けた行動を促したりするわけではありません。

マテックスが「脱炭素」に取り組む意味はあると思いますか?

吉田

私1人がやらないのと企業がやらないのとでは、影響の規模が違うと思うから、企業はやるべきだと思います。

藤田さんと斉藤さん

藤田

「CO2の排出量を減らそう」と取り組んでいる企業があることを、消費者をはじめとするステークホルダーに知らせるだけでも、十分意味があると思います。

「うちもやったほうがいいんじゃないか」と取り組みを始める取引先なども出てくるでしょうし、行動の連鎖を起こすという意味で、意義があると思います。

行動の連鎖の方法としても、直接的に窓を売ることを通じてというよりは、例えば途上国にサステナブルな製造方法の技術を伝えることのほうが、その土地の人々にとって意味があるように思います。

松本

松本:脱炭素や環境に対する取り組みは壮大なテーマで、何が本当の解決になるのかはまだ分かりません。

エコバッグ1つを作るプロセスと、プラスチックバッグ50枚を作るプロセスとで、CO2排出量はほぼイコールという話があったり、クリーンエネルギーと言われる風力発電所に巻き込まれたシマフクロウやワシが犠牲になっているという話があったりと、本質をつきつめると何が正解か分からない部分もあります。

結局は、「自分はどう参画できるだろう?」と考えながら、周囲を巻き込みつつ一緒に解決方法を模索していくことが重要なのだと思います。

トークテーマ:「経済成長至上主義からの脱却」

「経済成長至上主義からの脱却」とは、「利益をあげないこと」とイコールではない。営利企業である以上、未来に存続するために利益をあげ続けなければならない。

ただ、ここで立ち止まって考えたい。

「その利益の出し方は適正か?」

低価格の背景には、踏みつけられている誰かがいるかもしれない。地球環境に多大な負荷が生じているかもしれない。利益を生む背景に、そんな光景が広がっていないか、目を向けたい。

「先義後利」、創業者の松本義雄の経営哲学であり、現在のマテックスにも承継される価値観だ。社会のために尽くし、お客様に喜ばれ、従業員が安心して働ける信頼関係があれば、利益は自ずとついてくる。

闇雲に利益の最大化のみを目指す事業に、持続可能性はない。未来に存続するビジネスであるために、マテックスは敢えて、経済成長至上主義からの脱却を掲げている。

「経済成長至上主義からの脱却」というテーマで、マテックスは何ができるでしょうか?

斉藤さんと森田さん

斎藤(ひ)

私は自分自身が「競争したい」とか「めっちゃお金が欲しい」とか思っているわけではないので、このテーマにすごく共感しました。元々、「お金を稼ぐ目的のために広告などに高いお金を費やす」みたいなことに違和感を抱いていることもあり、本来の目的に沿って行動しようとしているマテックスの姿勢に共感を覚えました。

また、これは取引先企業とも関係が深いテーマだと思うので、製品とともに「経済成長至上主義からの脱却」という意識も卸していくことが大事だと思います。

藤田

「経済成長至上主義からの脱却」を掲げているということは、上司と部下の関係にしても意見を言いやすかったり、話が通りやすかったりと、風通しの良い会社なのかなという風に感じました。働く場所にしても家や会社の外で仕事ができて、場所を変えることで発想力が広がるような、そんな印象を持ちました。

左:右:吉田麻衣さん(法政大学グローバル教養学部1年生)の対話会中の写真
左:齊藤 真尋さん(法政大学グローバル教養学部2年生)右:吉田 麻衣さん(法政大学グローバル教養学部1年生)

斎藤(ま)

私はむしろ、社長を含め上司と部下が対等な関係であるべきなのか、正直疑問に感じています。意見が言えて風通しの良い会社になるのかもしれないけど、対等がいいのかどうかは……難しいところですよね。

この場で言うのもなんですが、私は「SDGsに積極的に取り組んでいます」という会社よりも、自分がやりたいことに挑戦できて成長を感じられる会社のほうが「いい会社」だと思っていて、平等よりも成長実感を重視しています。

松本

おそらくSDGsがどこか広報活動的になってしまっているせいで、「いい会社」に違和感を覚えるのかもしれません。でも実際、本気でそれを実現しようと格闘している企業もあるので、学生の皆さんもそこは見抜けるようになるといいですね。

よく、経営の3大資本は「人・物・金」と言われます。「あれ?」と思われるような会社は往々にして、この順序が「金・物・人」になっています。経営がうまくいかなくなると、すぐに人を調整弁のようにして減らしてしまいます。マテックスは、そういう会社にだけはなりたくないという決意も込めて、「経済成長至上主義からの脱却」を掲げています。

人にフォーカスした経営をしている会社は、物もお金も大事にしつつ、社員1人1人が成長実感を持てているかも重要視します。例えば、自分が考案した企画でお客様や生活者の方々から感謝いただいたら、「貢献できている」と感じられますし、成長実感も得られます。一方で、安値追求やシェアの拡大ばかりを主眼にして企業活動をしていると、偽装事件や不正の温床になりかねません。

マテックスは、ゆくゆくは業界の文化にも変化をもたらせるよう、引き続き「経済成長至上主義からの脱却」に挑戦し続けます。

4つのテーマを振り返って

これまで4つのテーマについて討論してきました。振り返ってみて、いかがでしたか?

斎藤(ひ)

個人的には、先義後利の考え方を今後も継承しつつ、世の中に浸透させていって欲しいと思いました。それが「自分ごと化」にもつながるような気がします。

森田

今日この場で初めて知ることが多く、特に「依(よりどころ)」の考え方は新鮮に捉えられました。また、私は途上国の問題に興味があるので、「自分ごと化」のテーマも「離れた国のことも自分ごととして考えられる社会づくり」につながる考え方で、すごくいいと思いました。

ただ、せっかくいい取り組みをされているので、もっと情報発信に注力されたらいいのかなと感じました。今の世の中の潮流を見ると、「SDGsやってます」という発信はどこの会社もしているので、今日伺ったみたいな根拠や具体的なエピソードとともに、これまでの取り組み実績を発信していかれてはいかがでしょうか。

情報発信は、自社の取り組みを広める意味でも、お客さんや消費者が「社会貢献している会社を選ぶ」という意味でも、意義のあることだと思います。消費者の考え方も、「お金を使う先を選ぶことは未来への投資」というような姿勢に変わっていくといいですね。

斎藤(ま)

私も、今回のような「知る機会」はすごくいいプロモーションになると感じました。それぞれのテーマに手厚く本気で取り組んでおられる印象だったので、マテックスのオリジナリティをもっと発信していかれるといいと思います。ただ、「SDGsやってます!」と前面に出すと他の企業と同じになってしまうので、発信の仕方には工夫が要りそうです。

それと、「自分ごと化」や「よりどころ」のお話を聞くなかで、長期的な視点でテーマ設定されていると感じました。長期的という意味では、次世代の私たちであったり、これから就職活動を迎える人たちだったり、未来世代のステークホルダーを大事にされている企業という感じがして、好印象でした。

最も共感できたテーマはどれでしたか?

斎藤(ま)

「依(よりどころ)」ですね。あまり耳にすることのない概念で新鮮だったというのもありますし、敢えてサードプレイスの提供をウリにしている会社にも出会ったことがなかったので、個人的には一番推しのキーワードでした。

吉田さん

吉田

私は「自分ごと化」ですね。SDGsで目指す最終目標って壮大なので、他人ごとになりやすいと思うんです。それに、仕事や生活において自分が満足した状態だったり、「こういうことのために仕事しているんだ」という認識があったりすることで初めて、本来の持続可能な目標に迎えるのかなと。

なので、短期的な売り上げとか目の前の現実がありながらも、同時並行で環境問題や社員1人1人が仕事に誇りを持てるようなテーマを掲げて社会課題に向き合おうとしているマテックスは、率直にすごいなと思いましたし、着実に最終目標に歩み寄っていると感じました。

学生の皆様、素晴らしいご意見をありがとうございました。最後に松本社長、今回の対話会について如何でしたでしょうか?

松本

これまで対外的に「あれもこれもやってます」と発信することに抵抗があったのですが、本日皆さんのお話を伺っていて、「自分たちをPRする」というよりは、自分たちが重要視する考え方を「広めていく」ことの大切さに気付かされました。本日話し合っていただいたテーマをどう世の中に広めていけるか、そんなところにも、マテックスらしい価値があるのかもしれません。貴重なご意見を、ありがとうございました。

松本代表

他の大学生たちとのダイアローグは以下から読むことができます。

SDGsツヅケルのメディアでも今回の取り組みが紹介されています。
是非、ご一読ください。
【企業と学生の対話会レポート】企業の取り組み、どこまで共感?「マテリアリティ」策定とSDGsへの貢献

◎会社概要
マテックス株式会社
所在地: 〒170-0012 東京都豊島区上池袋2-14-11(本社)
TEL:03-3916-1231
資本金:1億円
URL:https://www.matex-glass.co.jp/

サイバーリンクのAI顔認証「FaceMe®」で広がる顔認証技術の可能性

サイバーリンク株式会社(以下サイバーリンク)は、これまで高度な顔認証技術の技術開発を続けてきた。

同社のAI顔認証エンジン「FaceMe®」は2021年4月27日、機能のアップデートを発表した。今回のアップデートでは顔認証精度のさらなる向上や、iPhone、iPad Pro のFace ID で使用している 3D カメラを活用した 3D なりすまし防止機能への対応、「e-パスポート」への対応が行われるなど、さらなる顔認証技術の活用が期待できる内容だ。

今回はそんな顔認証技術のトップランナーであるサイバーリンクの事業担当者である萩原英知氏に、FaceMe®のアップデート内容や今後の顔認証の可能性について話を伺った。

 

FaceMe®実用化までの経緯

サイバーリンクといえば、知る人ぞ知るマルチメディア関連ソフトウェア分野のリーディングカンパニーである。顔認証技術では、いわば後発組だ。

そんなサイバーリンクのAI顔認証エンジン「FaceMe®」が、今やアメリカ国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで世界最高水準の技術として高い評価を受けている。

サイバーリンクがなぜ世界最高水準の顔認証技術を獲得したのか。

萩原氏に、まずFaceMe®の開発経緯を聞いた。

『私たちの得意としてきたマルチメディア関連ソフトは、パソコン用の動画再生や編集用のソフトウェアです。しかし、世界的にパソコンの販売台数が減少する中、将来を見据えて、私たちのコア技術を生かして、法人向けにビジネスを展開していきたいと考えていました。

まずは、WEB会議ツール、ウェビナーのサービスをリリースし、さまざまなお客様に活用いただいております。。そして、さらなる展開として、以前から我々は動画内のオブジェクトトラッキングや、顔認証によりログインできるソフトを開発していたこともあって、それをディープラーニングの技術を融合し発展させることで、様々なデバイスや認証システムに搭載可能な顔認証エンジンFaceMe®を開発することに成功したのです』

 

顔認証技術はなぜ有効なのか

顔認証を含む「生体認証」は、人間の体の一部を使って個人を特定する認証方法のことだ。

生体認証はeKYC(電子的な本人確認)のために多く利用されている。従来、金融機関の口座開設手続きなどは窓口などオフラインで本人確認が行われてきたが、これをオンライン上で完結させることで企業のコストや顧客の手間を省くことができる。

生体認証は顔認証の他にも指紋認証や虹彩認証などがあるが、顔認証は生体認証の中でも導入するメリットが大きいと萩原氏は語る。

『一番は、デバイスと接触する必要はないということ。これはコロナにおいても重要視されています。接触しなくても良い生体認証は他にもありますが、顔認証はデバイスと離れていても良いという特徴があるため、特にコロナ禍では大きなメリットになっています』

萩原氏が語るように、指紋認証などの生体認証はデバイスとの直接的な接触が必要なため、衛生面や感染予防の観点から課題が残る。顔認証であれば、対応するカメラとの人との距離が保たれるため、コロナ禍において大きなメリットとなるのだ。

 

「e-パスポート対応」で何ができるのか

FaceMe®は今回、パスポートのICチップに記録された情報を活用した本人確認に対応したと発表した。

萩原氏によると、現在利用可能とされる一般的なeKYCは、本人確認手続きとしてまだまだ普及しておらず課題もある、よってより信頼性の高い本人確認技術を確立することが目的だったと言う。

『FaceMe®では、2段階で本人確認を行います。まず、eパスポートの表面に印刷されている写真や記載情報を取得して、パスポートのICチップ内に入っている情報も読み込みます。この両方の情報が一致するかをチェックして、パスポートが本物であることを確認します。次に、ICチップ内の情報と、その場にいる本人の顔認証を行います。これにより、より信用性の高い本人確認ができるのです』

例えば、写真データ自体が改ざんされ、その本人がその場で顔認証をしたとしても、表面に印刷されているパスポート情報やICチップの情報と整合しなければ認証をパスできない。

このように、パスポートの記載内容と埋め込まれたICチップ、そしてその場にいる本人の情報を顔認証技術でチェックすることで、より確かな本人確認が可能になるという仕組みなのだ。

 

アップデートされたFaceMe®の「第6世代顔認証モデル」とは

今回のアップデートでは、「第6世代顔認証モデル」の搭載が発表されている。

『前提として、顔認証の世界では、認証率が100%になることはありません。そのような中で、FaceMe®は現段階でほぼ100%に近い数字は出ているのですが、今回は、ほんの残りコンマ数パーセントを埋めていくための精度向上を実現したという画期的なアップデートです』

また、今回のアップデートでは感染対策にも役立つ内容が盛り込まれている。コロナ禍の現在はマスクをしている状態でも認証せざるを得ない状況だが、FaceMe®ではマスク着用時でも精度の高い認証が可能だ。

『例えば、出社時に、顔認証で入室状況と検温データを同時に記録している会社もあります。認証時にマスクをはずさなければならないようでは、感染対策上、意味がありませんので、マスクをした状態でも精度の高い認証を提供することが重要だったのです』

 

顔認証技術はスマートリテールとの相性が良い

顔認証技術はセキュリティ分野などへの活用をイメージしがちだが、実は多くのビジネスにも応用されている。

萩原氏によると、特に需要が高かったのがスマートリテール分野だと言う。

『これまでコンビニや量販店は、会員登録をしていない顧客の年齢層や性別などの属性、購買履歴などの情報を得ることができませんでした。顔認証技術を使うことで、どのような属性の顧客が何を買っているのかという傾向を知ることができるため、新たなマーケティング施策を打つことができます』

同じくニーズが顕在化しているのがデジタルサイネージ分野だ。

広告主が広告を出稿する場合、広告効果を測定することで広告の費用対効果を知ることができるが、デジタルサイネージにカメラがあれば、広告閲覧者の性別や年齢層なども把握しやすくなる。

『顔認証技術を活用することで、場所や時間帯によって表示すべき広告を変えることが可能です。カメラに映った情報をリアルタイムで取得して、その人にあった広告を表示するなど、本当の意味での1to1マーケティングが実現できることになるのです』

他にも、ある小学校では、生徒の感情を顔認証技術で分析し、問題を抱えている生徒がいないか検証する実証実験を行っている事例もある。

感情には絶対的な基準があるわけではないため、感情の数値をどのように活用するかはそれぞれの利用目的により変えることができる。

ここにサイバーリンクさんからいただく予定のソフト起動時の画像を挿入

 

顔認証技術は今後、医療現場や工場などの課題解決に役立つ

萩原氏は、今後顔認証技術の導入が進むであろう分野として、医療現場や工場での活用をあげている。

『今我々が注目している分野のひとつは医療分野です。医療現場では、有資格者でないと使えない医療機器、薬の取り扱いなど、本人確認を必要とするシーンがあります。しかし現在は運営している会社のモラルや人的な運用に任せている部分が大きい。

顔認証の技術を活用いただくことで、資格がなければ使えない医療機器などを起動する際は、有資格者がカメラの前に来ないと動作しないように設定することができます』

また、工場における労務管理の効率化という面でも活用が可能だ。

『海外では工場の受付で何千人何万人の従業員の勤怠を確認していることもあります。しかし、今コロナでこれらの状況を見直す必要がある。顔認証を使うと、ウォークスルーでそのまま誰が出社したのか履歴を残しながら管理でき、事務職の方の負担軽減にもつながります。セキュリティと利便性を同時に向上させることができます』

最後に、顔認証分野において今後若い世代に注目してほしい点を伺った。

『我々の開発している顔認証技術そのものは非常に高度なものなのですが、実際は同じ技術が一部のスマートフォンのロック解除や空港で使われていたりと、身近なところから高度なセキュリティを求められるところまで様々なかたちで導入されています。普段の生活の中で使われている技術に気づいていただく、気づくことで見えてくる世界や視野も変わってくると思いますので、そのあたりに注目していただけるとありがたいです』

セキュリティだけでなく、BtoB市場を中心に様々なビジネスを加速させるサイバーリンク。今後もFaceMe®が多くの現場の課題を解決してくれることに期待したい。

 

<プロフィール>

江連良介

ライター・編集者。1989年、北海道札幌市生まれ。政策、金融、法律、テクノロジーなど幅広い分野で執筆活動を展開。最近の関心分野はGovTech分野など。

 

アバター接客とAI顔認識の可能性。AIと人のハイブリッド接客とは

店舗での接客業務を遠隔で行う実証実験が各所で始まっている。アバター接客は、新型コロナウイルス禍の対面機会を減らすことに加え、テレワークを続けたまま接客勤務に携わることができる画期的なテクノロジーだ。さらにこれらの接客時の情報をビッグデータとして蓄積して活用すれば、サービスの質向上やマーケティングにも役立つ。アバター接客の現状を追ってみよう。

 

アバター接客とは何か

アバター接客は、店頭で来店客からの質問や相談にディスプレイに表示されたアバターが対応するシステムだ。これだけ聞くと「いわゆるテンプレートの自動回答システムでしょ?あれだと本当に知りたいことが結局わからないんだよね」と思う方もいるかもしれない。

アバター接客は従来のチャットボットやIVRのように、お客様からの質問を整理仕分けし効率的に対応するためのサービスとは異なる。画面にはアニメーションで人の顔が表示されているが、実際に喋っているのは人間のオペレーター。つまり、アバターを介した人による遠隔接客を可能にするシステムだ。

遠隔接客のメリットの一つは、コロナ禍において人の対面接触を減らしテレワークで販売員の勤務を継続することができることだ。小売店によっては「店員への声かけは極力ご遠慮ください」といったアナウンスをしているところがあるが、お客様にとっては代替手段がなければ店員に声をかけざるを得ない。また、アバター接客を導入すれば出勤する店員が少ないことで店舗の密が軽減され、お客様が安心して来店することができる効果もあるだろう。

 

接客の質を高めるアバター接客

アバター接客の効果はコロナ禍における課題解決に留まらない。対面で行われていた従来の接客よりも顧客体験を向上させることが可能だ。

アバター接客の裏側にいるオペレーターは一人とは限らない。複数人のオペレーターをお客様の質問や要望に応じて切り替えることで、顧客の課題解決をより正確にスピーディーに行うこともできる。従来の対面接客では、知識量や得意なカテゴリーが販売員によって振り幅があるため、店舗のリソース状況によっては満足いく接客が受けられないことがあった。さらに、一対一の対面接客では混雑時に待たされることも多い。お客様の求めに応じて適切なスキルのあるオペレーターを割り当てることで、対応の正確さや速さが高まる。

加えて注目すべきはディスプレイ上で様々な画像を表示することで、口頭よりもわかりやすい説明・提案が可能であることだ。複数の商品の比較提案、店頭にない商品の提示、さらに動画等を組み合わせた利用イメージの伝達など、従来の対面接客では難しかった深度のある顧客体験ができる。

消費者が実店舗を訪れるメリットは直接商品を見て手に取れること、その場で商品やサービスを購入できることだった。アバター接客を導入することで、従来のメリットはそのままに顧客体験の向上が実現する。さらに、店舗側にとってはコロナ対策、業務効率化、売上向上等につなげることができ、経営改善やキャッシュフローの最適化が進むだろう。

AI顔認識システムで接客業務の科学的な改善が可能に

さらに、オペレーター側の接客業務の改善に役立つのがAI顔認識システムだ。AI顔認識システムにより、接客を受けるお客様の表情から感情を分析できる。

これらの感情データや性別年代等を収集・蓄積することで、接客の精度を上げるのみならずマーケティングに役立てることが可能と考える。AIが正確なデータを効率的に収集することで、客観的に評価し、業務効率の改善につなげることができるようになるだろう。。

東急ハンズの実証実験で採用された「FaceMe®」とは

アバター接客とAI顔認識を組み合わせた店頭での運用事例として、株式会社東急ハンズと株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下NTTデータ)が共同で行った実証実験が挙げられる。

この実験は2020年6月1日から15日にかけてまず東急ハンズ渋谷店で行なわれ、さらに2020年10月16日から12月15日までの約2か月間に東急ハンズ渋谷店、新宿店、池袋店、梅田店、博多店の3都市5店舗にて拡大して行われた。スキンケア商品と加湿器コーナーに設置されたアバター接客を体験した客からは「店員より話しかけやすい」「説明と補足画像がセットになってわかりやすい」という声が多く聞かれた。

東急ハンズは「ヒント・マーケット」を提唱しており、ユーザーに暮らしのヒントを与え、ユーザーから明日のヒントをもらうという双方向のコミュニケーションの加速を目指している。アバター接客は双方向コミュニケーションのハードルを下げ、結果として消費者の店頭購入を促進するはずだ。

この実証実験においてAI顔認識システムとして採用されたのが、サイバーリンク社が開発した「FaceMe®」だ。FaceMeが今回提供した機能はAIによる感情読み取り。画面でアバターと向き合った客の表情・年齢・性別を取得しデータを蓄積する役割である。取得したデータはNTTデータのシステムでで解析され、サービスの改善やマーケティング戦略に役立てることが可能だ。

具体的な強みは顔の傾きや眼鏡、髪型、ヘルメットなど顔認識がしづらくなる要素があっても読み取れることだ。特に顔の傾きについては他社製品では正確に読み取れる限界が30°〜45°のところ、FaceMeでは60°まで可能。サイバーリンク社が培ってきた画像をトラッキングする技術力が生かされている。

サイバーリンク社が顔認証で実現する未来

上記で紹介した実証実験においてはFaceMeが提供したのは顔認識の機能だが、サイバーリンク社ではさらに広範な顔に関わるテクノロジーを開発提供している。

パスワードとしての顔認証では高精度の読み取り機能のニーズは非常に高い。金融関係のクライアントに関しては顔認証や指紋認証、手入力パスワードを組み合わせた高セキュリティソリューションの提案を行っている。

また、eKYC(オンラインでの本人認証)の分野でもサイバーリンク社は強みがある。顔認証の精度の高さに加えてソフトウェア自体になりすまし防止機能を搭載しているため、専用のカメラを導入する必要がない。また、多様なプラットフォームに対応しているため、企業の規模や業種、IT環境の状況等に関係なく柔軟に導入を検討することが可能だ。

サイバーリンク社が提供するFaceMeをはじめとしたAI顔認識・顔認証システムは、今後の店頭サービス等のコミュニケーション分野、セキュリティ分野でさらなる存在感を放つことになるはずだ。AIの精度の高さは人間の認識能力を大きく超え、サービス自体や情報収集の可能性を飛躍させる。

マルチメディアソフトで培った映像技術でBtoB市場でも躍進。高い技術力で見すえるサイバーリンク社の未来とは?

     サイバーリンク株式会社 セールスデパートメント バイスプレジデント 萩原英知氏

サイバーリンク社は、マルチメディア分野をリードするグルーバル企業。台湾の本社のほか、日本、アメリカ、ヨーロッパなどに拠点をもち、主力とする動画再生ソフトやビデオ編集ソフトは高いシェアを誇る。近年は、ウエブ会議システムやAI顔認証エンジンなどでBtoB分野に進出、高い技術力を強みに事業を拡大する同社の戦略について聞いた。

 

産学連携から誕生。IT先進国・台湾を代表するマルチメディア企業

新型コロナウイルスが世界中に拡大する中、注目を集めたのが台湾の政策だ。2002~2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)を教訓に、ITを活用したマスク配布システムなどの取り組みで、封じ込めに注力。4月末現在、感染者は400人弱、死亡者は1桁台に止まっている。弱冠36歳のIT大臣の存在感とともに、台湾の先駆的なデジタル環境が広く知られることとなった。

産官学が連携し、IT産業を発展させてきた台湾。1996年設立のサイバーリンク社もその環境から生まれた企業だ。最高経営責任者 (CEO)のJau Huang(ジャウ・ホァン)氏は、UCLAでコンピュータサイエンスの博士号を取得したのち、国立台湾大学(NTU)電気情報学院の教授として活躍した経歴をもつ。

 

「国立台湾大学マルチメディア研究所がスピンアウトしてできた会社で、社員の60%がエンジニア。台湾でいちばん大きいソフトメーカーであり、台湾を代表する企業として知られています」と萩原氏。

「当社がもっとも大切にしているのが技術力」と語るとおり、映像の品質に大きく影響するコーデックを中心に、これまで取得した特許は200以上。これまでに出荷したソフト&アプリは4億件以上で、主力製品である「PowerDVD」は、Windows PC用の最初のDVD再生ソフトとして知られ、圧倒的な映像とオーディオ品質が高い評価を獲得し続けている。多彩な機能とユーザビリティに優れたビデオ編集ソフト「PowerDirector」も支持が高く、日本国内ではBCNのビデオ関連ソフト部門において5年連続で国内シェアNo.1を獲得している。2000年10月にIPOを達成(現在は台湾株式市場に上場)し、急成長とその後の安定した経営を実現している企業だ。

 

グローバル企業の社内ニーズが生みしたWeb会議システム「U」シリーズでBtoB市場に参入

長らくマルチメディア関連ソフトウェア市場のリーディングカンパニーとしてひた走ってきた同社だが、近年はBtoB市場にも進出。その第一弾が2017年にリリースしたビジネスコミュニケーションツール「U」シリーズだ。ビジネスチャット、ウエブ会議、ウエブセミナーからなり、この分野で先行するSlackやTeams、Zoomなどとの大きな違いは「使いやすさ」を徹底的に訴求したことにある。

 

「他社の類似ツールは機能追加を競っていますが、『U』の機能は必要なものだけに絞り込むことにこだわっています。機能数を競ったところでユーザーが使いこなせなければ利用されません。ビジネスチャットは即効性、ウエブ会議は高画質、ウエブセミナーはユーザビリティを追求し、誰もが使いやすいコミュニケーションツールを開発しました」

 

多機能・高機能を追求し、複雑化するビジネスツールの中で異彩を放つ「U」だが、その背景には世界中に拠点をもつ同社ならではの開発秘話がある。

 

「SARSやリーマンショックで、台湾本社との行き来が難しくなった時期、どこよりもウエブ会議の必要性を痛感したのが当社です。そこで、さまざまな既存サービスを使い始めたのですが、音声や映像がなかなか出なかったり、途中で切れてしまったりどれも使いにくい。そこで、『自分たちで作ってしまおう』となりました」

 

動画再生ソフトやビデオ編集ソフトで培った技術を生かし、画質や音声のグレードを追求。「この方が使いやすい」「これは不要」など社員の意見をフィートバックし、改良していくうちに商品化が決まったそう。このように、開発時から徹底的にユーザー目線であったことが「U」の最大の特長であり強みだ。

 

「ビデオ編集ソフトのユーザーさんは年配の方も多く、そういう方がいかに簡単にできるかを考えて設計します。そのノウハウも生かすことで、ITリテラシーが高くなくても使うことができるツールを開発しました。導入されている企業は、社内にIT管理者のいない中小企業や飲食関係などが多く、他社製品と棲み分けができていると言えます。パートやアルバイトの方もムリなく使えるのだけれど、画質がよく、会議の進行がスムーズにできるというウエブ会議の肝を抑えているのが『U』です」

 

在宅勤務をする女性のニーズから生まれたユニークな機能もある。Web会議中にリアルタイムでメイクが適用される「PerfectCam(パーフェクトカム)」だ。

 

「在宅勤務中に会議のためだけにメイクをするのは億劫という声に応え、当社の先端技術を生かし、口紅やアイシャドーなど好みのメイクを選択できる機能を搭載しました。選んだメイクのパターンは保存が可能ですから、一度設定してしまえばいつでもすぐにメイクアップが可能です。自宅を見られたくない時のために自由に背景を変えられる機能もつけました」

 

同様の設計思想で開発したウエブセミナーも、パワーポイントのような操作性で簡単にライブ配信・オンデマンド配信をすることが可能だ。さらに、リアルなセミナーと同じ感覚で使用できるQ&Aセッション機能なども加え、他社製品との差別化を図っている。

 

「Q&Aセッションは、顧客のニーズから生まれた機能です。ローカルの顧客のニーズをすくいあげ、すぐに反映できるのが我々の企業文化。トップとの距離感がすごく近い。世界各国の拠点の責任者が週に一度『U』でウェブミーティングを行いますが、エンジニアである台湾本社のトップも参加し、『こういう技術がほしい』など要望が出れば、その場で決められる。決断に至る過程がとにかく早いんです」

 

映像編集ソフトで培った技術を基盤に、最先端のAI顔認識エンジンを開発

「顔認識のマーケットは10年くらいの歴史がありますが、AIという新しい技術が出てきたことで、新規参入のチャンスが生まれました。何より、我々はビデオの世界でGPUやCPUの最適化にずっと取り組んでいましたから、スマホやIoTのデバイスでも動かせるエンジンで優位性があることが参入の決め手となりました」

 

ビデオ編集ソフトで培った技術を基盤に対象のトラッキング技術、AIや他の顔認識に必要な技術などを組み合わせることで、世界トップレベルの精度をもつエンジンを完成。同社製のエンジンは、主に商業施設の集客分析などスマートリテールの分野に導入されているが、空港で使われているエンジンとほとんど差のない精度をマークしているそうだ。顔認識精度の権威として知られるアメリカ国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストでは、99.7%の精度(2020年3月現在)を記録。

 

OSはWindows、Android、iOS をはじめ、Ubuntu x86、Ubuntu ARM、RedHat、CentOS、Yocto、Debian、JetPack などの様々な Linux ディストリビューションを含む 10 種類以上の OS をサポート。低消費電力のCPUで動作し、コスト効率の高いAI/IoTデバイスでの顔認証が可能であることなどから、高い精度でありながらリーズナブルに導入できるのも強みだ。

 

顔認識エンジンに参入して1年強。先行メーカーと比較しても、実用性の高さなどで「どこよりもキャッチアップしている」と大いに手ごたえを感じているという。

 

「グローバル展開の当社の場合、いろいろな国のお客さんと直接お話し、情報を吸い上げることができますから、どこにどんなニーズがあるかいち早くピックアップできます。開発のスピードが他社さんに比べておそらく速い。実情に即した製品を、スピード感をもって用意できるという点で大きなアドバンテージがあると感じています」

 

顔認識エンジンは、大手電機メーカーも顔認識を手がけているが、特定のプラットホームだけをカバーするなど、大きな会社特有の小回りが利かない傾向がある。「ひととおりのプラットホームをおさえ、なおかつ使いやすい形と精度を両立している当社製品が活躍できる余地は大きい」と自信を見せる。

 

常に先端を走る技術力と風通しのいい企業文化で、さらなる展開を視野に

2020年4月、働き方改革が中小企業でもスタート。そして、収束が見えない新型コロナ禍。在宅勤務を導入する企業が増え、期間の延長も予想される中、高画質で操作性のよい「U」が企業活動に貢献する機会はより増加しそうだ。

 

AI顔認識エンジン「FaceMe」では、2020年2月にNECパーソナルコンピュータ株式会社の一体型PCの顔認識機能に採用されるなど、身近な製品でもサイバーリンク社の技術が活躍している。

 

今後はどのような展開を考えているのだろうか。

 

「現状、日本で顔認識エンジンがもっとも普及しているのが入退室管理ですが、〇〇ペイの増加などで、今後マーケットの拡大が予想されているのがeKYC関係です。この分野では精度の高さはもちろん、なりすまし防止機能が必須となっています。当社の製品にはなりすまし防止機能が搭載されており、その点でもアドバンテージがあることから、今後の進出分野としてフォーカスしていきます」

 

さらには、スマートリテール分野では特定施設の集客分析に止まらず、AI顔認識で地域づくりに貢献するビジョンも描いているという。

 

「人の流れをつかみ、どういう人が来ているのか、どういう行動をしているか、滞在時間や顧客属性などお客さんを分析し、集客などの対策を本当に必要とするのは、お客の減少に悩む商店街です。顔認識エンジンの導入に費用がかかることから、顧客は一定以上の規模感の企業ですが、たとえば商工会議所と組んだり、他社の技術とコラボしたりすることで適切なソリューションを開発し、商店街の再生に役立てることを模索しています」

 

従来のBtoC市場に加え、BtoB市場にしっかりと歩を進めているサイバーリンク社。グローバルで風通しのいい企業文化が時代と切り結びながら新たな技術、製品を送り出す。同社の真骨頂がさらなる貢献を生み出していくことは間違いない。

 

 

<プロフィール>

萩原英知(はぎわら・ひでとも)

1997年に日本ゲートウェイ株式会社に入社、プロダクトオペレーション部において事業分析を担当したのち、

2001年よりユーリードシステムズ株式会社(現コーレル株式会社) にてプロダクトマネージメント部の部長を経て

2007年より事業責任者として、在籍中にビデオ編集ソフトウェアは12年連続で国内シェアNo.1を実現。

2012年からは現在のサイバーリンク株式会社にて、B2Cの事業責任者としてマルチメディアソフトウェアの国内シェア5年連続No.1を達成。

さらに2017年からB2B製品(ビデオ会議など)の事業も担当し、2018年からは新たにAI顔認識エンジン「FaceMe」事業も担当している。

 

サイバーリンク株式会社

https://jp.cyberlink.com/index_ja_JP.html

設立:2005年3月

資本金:9,500万円

代表:ヒルダ・ぺン

本社所在地:〒108-0023 東京都港区芝浦3丁目5-39田町イーストウイング4F

事業内容:

デジタルメディアの作成、再生、共有などのアプリケーションの開発、マルチメディア関連ソフトウエア、Web 会議・オンラインセミナー・ビジネスチャット「U ビジネスコミュニケーション サービス」、顔認証エンジン「FaceMe」の販売

 

【学生取材レポート】ダイドードリンコ株式会社

文:卜承漢(ぼく すんはん) 写真: 周依琳(しゅう いりん)

取材先:ダイドードリンコ株式会社 人事総務部人事グループ 中野絢様、山下実菜美様、渡邉彩様

業界:飲料製造

 

ダイドードリンコ株式会社は、飲料の自動販売機設置台数が全国で28万台を超える、学生にとっても非常に馴染み深い会社だ。ダイドーの社名は、元々の設立母体である「大同薬品工業株式会社」の“大同”に由来するが、さらに意味を付加して「ダイナミック(Dynamic)」にチャレンジを「行う=ドゥ(Do)」という企業精神を表して「DyDo」としている。また、「ドリンコ」は英語の「ドリンク(Drink)」に、“仲間・会社”を意味する「カンパニー(Company)」をプラスした造語だ。全体として 「ダイナミックに活動するドリンク仲間」を表現しているそうだ。今回、中野様、山下様、渡邉様に学生数名で取材させていただいた。

 

-御社は飲料業界では、製品開発から販売までを手掛けられています。御社の全体事業戦略と各セグメントごとの事業戦略の関係について教えてください

戦略の大枠としては、中期経営計画の中で2018年度を最終年度として、4つのチャレンジについて取り組んでいます。一つ目は既存事業成長へのチャレンジです。現在、売り上げのほとんどが自動販売機によるものです。この自販機ビジネスを強化し、キャッシュフローの継続的な拡大を図っています。二つ目は商品力強化へのチャレンジです。商品自体のブランドパワーをより高めることに取り組んでいます。三つめは海外展開へのチャレンジで、イスラム圏のトルコに新しい戦略拠点を構築し、輸出ビジネスの拡大に取り組んでいます。最後は新たな事業基盤の確立へのチャレンジです。飲料、食品だけでなく、M&A戦略により、新たな収益の柱確立に取り組んでいます。

 

­­-世界的な企業も含め競合他社がひしめく業界での御社の経営の強みについて教えてください

経営面では①自販機②コーヒー③ファブレスの三つの強みがあります。①自販機は全体売り上げの85%以上占めている中核事業です。②商品でいうと、飲料売り上げ全体の50%を占めるコーヒーが強みです。特に、当社は香料不使用のコーヒーづくりを行っており、香料で香るのではなく本来の豆の香りが飲み終わるまで継続することにこだわっています。これは「こころとからだにおいしいものを」提供したいという思いから、創業からずっと守り続けてきた当社の精神です。③ファブレスは、fabrication facility(製造施設)とless(ない)を合わせた言葉で、自社工場がないという意味です。協力している会社に製造・物流を委託しています。なぜそれが強みかというと、全国約30ヶ所の工場で現地生産し、現地消費を可能とすることにより、物流コストを抑えることができるからです。また、工場建設という設備投資のリスクを回避することができます。これらにより、経営資源を効率よく運営することができ、限られた資源を商品の企画、開発、自販機オペレーションなど、必要なところに集中することができます。キャッシュフローの面でいえば、 協力会社に掛け買いをするという方法を採っています。そして売上金の回収は自販機からの現金主体なっていて、収支ギャップが常に小さいです。その結果、安定したキャッシュフローが確立されて、確固たる財務基盤を持って経営を推し進めていることも強みと言えます。

 

-以上の事業戦略を遂行されるにあたって、御社が採用したい人材の人材像について教えてください

当社で求める人材像は、若手からチャレンジできる風土を利用してそれを生かすことができる人材、つまり、チャレンジ精神に満ちあふれて失敗を恐れずに実行できる人、主体的にレールを引ける人です。先に述べたような当社の三つの強みが今の時点では強みとしても、それがいつまでも当社の強みであり続けるとは言えません。外部の社会と環境の変化により変わっていくかもしれません。その世界の流れの中で、当社は、若手からチャレンジできる風土が確立されているのが強みです。社長の髙松富也は42歳と若いので、その分社員との距離が近く、若手の意見も聞きながら、会社全体でどんどんチャレンジを推進しています。このように、当社ではチャレンジ精神が浸透しており、若手にも積極的に機会を与えています。たとえ失敗しても良いので前向きに取り組むことを推奨しています。私も人事グループに配属されてすぐに上司から、「どんどん主体的にやっていってほしい」と言われました。基本的には自分一人に全部の過程を任せてもらえるため、最後まで自分の力でやりぬく達成感があり、その中で成長することができるのです。

 

­-御社はボストンキャリアフォーラムに参加されていますが、留学生に性格的なソフト面と学歴などのハード面の二点において、どのようなものを期待されているのか教えてください

当社は自販機ビジネスとして成長してきたので、自販機ビジネスに強い人材が多数です。現在、当社を取り巻く環境は変化しているため、その変化に対応できる多様な人材が必要となっています。留学経験がある学生には、海外経験によって広まった視野や語学力を生かして社内をより活性化させることができる人として期待していますが、当社は採用の際、育成の観点からハード面よりはソフト面を重要視しています。なぜかというと、ハード面は会社に入ってから身に着けることができるからです。もちろん、ハード面のスキルを備えていることは有利です。海外事業部で担当できる幅も広くなり、活躍できる部門も多くなります。しかし、入社時点でのスキル不足を理由に配属が限定されたり、採用されないということはありません。知らないことに対し、先輩や周りの人の話を素直に吸収できる人、かつ自分の意見も持ちながら、違う世界感に触れたり、知らなかったことを教えてもらったとき、それをどうやって活用し、自分としての色を出していこうかと考えられる人と一緒に働けることを期待しています。

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-これから就活を迎える大学生に一言アドバイスをお願い致します

アドバイスの前に逆質問になりますが、就活にあたって、どのような業界が気になっているとか、こういう仕事がしたいということが決まっている人はいますか。やりたいことが明確に決まっていることも大事ですが、何事にも二面性(表裏)があって、今自分が考えていることや当たり前だと思っていることがもしかしたら固定観念かもしれないので、そういう意味で色んな企業を見てほしいです。就活だけでなく、生活するうえでも、自分が選択した行動が固定観念によるものかもしれないということを思いながら、常識と思っていることを非常識と捉えてみようと意識することが大切です。元々自分が思っていたことが違うと気が付くかもしれないし、さらに自分の考えが明確になるかもしれない。そんな意識を持って生活してほしいです。そのための手段としてインターンシップに参加したり、企業について深く知ることが重要です。 

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この度、業界や独自の事業展開について非常に丁寧にわかりやすくご説明いただいた。取材を通して、身近な飲料メーカーも、広い視野でグローバル化の潮流に合わせた変化を遂げていることが理解できた。モノづくりという産業にも関わらず、自前の製造にとらわれるのではなく、ファブレスという差別化戦略を取り、またいかに時代の変化に適応していくか考えられていることが印象深かった。社員との距離を縮めて若手の声に傾聴し、常に革新的な姿勢を維持しようとする社長のスタンスも理解できた。無香料という品質へのこだわり、またファブレスという思い切った戦略など、チャレンジする企業としての将来性を感じた取材となった。

 

 

【学生取材レポート】ラオックス株式会社

取材・文:張 軒誠

取材先:ラオックス株式会社 社長室経営企画部 山崎様 山本様

業界:小売業 家電量販店 インバウンド消費

 

ラオックス株式会社は、1930年に谷口正治氏が東京都墨田区で創業した谷口商店を源流とし、80年以上の歴史を持つ伝統のある企業です。ラオックス株式会社は、2000年前後は店舗数の量的拡大を目指しおり、最大手の家電量販店として数えられていたこともあります。しかし、近年ではその業態から一変し、海外旅行客を主な客層とした総合免税店としてのブランドイメージを確立させました。現在、日本におけるインバウンド消費市場は成長・拡大をし続けており、この市場をどのようにとらえられているのか、社長室経営企画部の山崎様、山本様に様々な質問をさせていただきました。

 

―まずは会社の歴史についてお聞かせください。

 「2000年頃、わが社は『家電量販店の雄』と呼ばれるほど大手の家電量販店でした。しかし、その後ビックカメラやヨドバシカメラといった新興家電量販店との競争に敗れ、店舗数を大きく減らしていきました。しかし2009年に中国の蘇寧電器(現:蘇寧易購)の資本が入ったことをきっかけに、従来の体制を一新して他社に先駆けて総合免税店を開き、日本へ来日する外国人旅行客を主な客層とする方向に舵を切りました。わが社では当時から一貫して『日本製品の価値の再発見』をコンセプトに、技術・品質に優れる日本製の商品・サービスを海外のお客様に提供し、「ジャパン・プレミアム」を届けることに努めております。」

 

 「また、その他にもわが社では他社に先駆けて新しい事業に積極的に取り組んでおります。その一環として、現在ラオックスでは家電のみならず、お客様の意見を取り入れて様々な商品やサービスを取り扱っております。例えば、安全面において高く評価されている日本の医薬品などドラッグの強化、また日本産の高品質な生活雑貨、婦人靴などのライフファッション事業や、海外のお客様に日本文化を体験していただくためのレストランの運営、劇場等のエンターテインメント事業も行っています。ですので、以前の家電量販店のイメージを持っている方が現在のラオックスの新店舗にご来店いただいた際、その意外性に驚かれるかもしれませんね。」

 

エンターテイメント事業 (『ギア-GEAR-』EastVersion)

 

「また2011年以降、蘇寧の子会社となった後は雇用がより柔軟なものとなり、男性ばかりではなく女性の従業員も増えました。現に経営企画部の私たちも女性の比率が多いですからね。」

 

―では、2009年以降女性社員が増えたと仰いましたが、そのメリットは何ですか?

 「女性のほうが場の雰囲気をくみ取りやすいですね。例えば女性の場合、店舗でも雨の日にお客様にタオルを差し出すといったような気遣いが、一般の男性に比べてより自然にできますよね。このような細かい気配りがサービスの質を向上させているのです。」

 

 「また、接客の面でもメリットがあります。従来の家電量販店では男性従業員が中心で、いわゆる体育会系のセールスがとても多かったのです。しかしそれは女性客にとっては非常に話を聞きづらい環境で、女性従業員を増やすことで接客の質の向上に繋がっています」

 

 「もちろん女性の弱さもあると思いますよ。例えば女性ばかりの店舗は安全対策に欠けるので当然男性従業員も必要です。会社は一つの家みたいなもので、男女それぞれの役割があるのです。女性が一人でもいる部署では、どうしてもその女性社員に対する配慮をせざるを得なくなり、企業内の雰囲気が柔らかくなり、社員の働き方も変わります。」

 

―競合他社に対してはどういう考えでいらっしゃるのでしょうか?

 「基本的に他社と競争しようといった思いはありません。仮に日本におけるインバウンド消費市場で与えられるパイが一定であるとするなら、奪い合わなくてはなりません。しかし、日本のインバウンド消費はこれから明らかに拡大傾向にあるため、様々な企業がそれぞれの特徴を活かし、外国人旅行客の方々に日本製品の良さを知っていただき、結果として日本のインバウンド消費市場を成長させていけたらなと思っています。」

 

 「わが社はそういった競争を意識するよりも、いかに特徴的な店店舗づくりを進めていくかを意識しています。商品を開発する際、何よりもお客様の意見を取り入れています。例えば以前、日本の炊飯器といえば白かシルバーの色しかなかったのですが、お客様の意見を取り入れ、赤やゴールドの炊飯器を販売した結果、特に中国圏のお客様に大ヒットしました。このように入手した情報をいち早く製品に反映させた方が、従業員もよりのびのびと接客できるようになるのです。結果として、こういった手法で他社にない製品を販売することにより、多少高価だとしてもお客様に満足して買っていただけるようになるのです。」

 

―いわゆる『爆買い』の終息に関してどうお考えですか?

 「確かに商品を陳列するだけでお客様に商品を買っていただける時代は終了したと思います。従来の『爆買い』時は決まった商品を1回でまとめて購入されるケースが主流だったのに対し、現在はリピーター客の増加もあり、様々な商品を数回にわたって購入する方向にシフトしています。結果としてお客様一回あたりの購入金額は当時に比べて落ち着いていますが、来店客数は順調に増加しおり、今後もゆるやかに増加していくことが予想されていますので、終息と言うよりは『爆買い』の形が変化しただけだと思います。」

 

 

 「もちろん販売方法の工夫もしています。わが社では販売する際、単品購入よりもお買い得なセット商品を作り、レジ前で提案するなどの販売方法にも力を入れています。こういった提案をすることによってなるべく数量を多くお買い求めいただくようにしています。盲目的な購入が減っている今日では、企画と提案が重要になっているのです。」

 

―御社はどうしてもアジア人顧客が多いイメージがあるのですが、その他の国々の顧客に関してはどうお考えですか?

 「やはり親会社が中国の会社ということもあり、わが社の主要顧客はアジアのお客様です。しかし、欧米や他国からのお客様も一定数いらっしゃり、年間で約50カ国のお客様に来店いただいています。アジアのお客様は生活の中で使用する消耗品への購買意欲が高く、日本製品を多く買われるのに対し、欧米のお客様は日本の置物やお土産品等を購入されたり、茶道の体験をしたりとより日本古来の文化体験を好まれる傾向があります。営利企業として、わが社はより利益の上がる方、パイの大きい方を重点的にマーケティングしています。」

 

―御社が就職活動に臨む学生に対して求めるものをお教えください。

 「まず、わが社は社員の提案することは何でもやらせる会社です。なので、自分の社会的地位や年齢、性別、国籍など気にせず、果敢に自分の考えを表現する新入社員であってほしいです。例えば自分の上司の提案に対しても積極的に意見できるような人がいいですね。確かに生意気だと思われるかもしれないですが(笑)。しかしわが社では、基本的には手を挙げればやらせてもらえる雰囲気ですので、他人の目をはばからず、積極的に自分の意見を発信できる学生さんにぜひ来ていただきたいですね。」

 

 「また、わが社はまだ成長段階にあるので、現状に満足するのではなく、常に成長志向を持った学生さんも大歓迎ですし、わが社の雰囲気に合うのではないのかなと思います。逆に上司からの指示を待ち、そのすべてに何の疑問も抱かずに忠実にこなすような人はわが社には合わないのかも知れませんね。確かにこのような人は大企業では出世するのかもしれませんが、わが社では上司に自分のキャリアを決めてもらおうとしているような人はあまり向いてないですね。」

 

 「例えば、1階で待ち合わせていた時の景色と15階にあるこの会議室から見た景色だと随分違って見えたと思うのですが、やはり高みに上った後に見える景色は変わります。わが社としては現状に満足せず、欲を出してその高みに上ってみたい人にぜひ来てほしいですね。」

  

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取材を終えて、振り返ると、『革新』という言葉がしばしば脳裏に思い起こされた。他社に先駆けて新たな市場を開拓しようという強い意志をひしひしと感じた。やはり多様な国々の顧客を対象とするビジネスにおいては柔軟な新しい発想が求められるのであろう。社員とともに会社も不断に成長を続けるラオックス。取材を受けていただいた方々から溢れんばかりの成長志向が感じ取られ、自分も努力を続けようと決心させられるようなエネルギーに満ちた取材であった。

【学生取材レポート】三井ホーム株式会社

取材:木原凛太郎、Che Alice、鈴木彪太

文:木原凛太郎

取材先:三井ホーム株式会社 人事部 人材開発グループ 塚原知宣様

業界:住宅

 

 三井ホームは、1974年創業の、注文住宅専門のハウスメーカーである。2×4工法を強みとして、長く選ばれ続ける住宅メーカーである三井ホームの塚原様に、現在の業界構造とこれからの展望、そしてその変化に対応していくために必要な人材像を聞いた。

 

 -建設・住宅・不動産業界とはどのような構造になっているのですか?

 「建設・住宅・不動産業界の企業は、主に仲介・デベロッパー・ゼネコン・ハウスメーカーの4つの業務内容に分けられます。仲介はその名のとおりビルや土地建物の売買の仲介を行っており、デベロッパーは、都市開発のような大きな企画を行っています。残りの二つは実際に建物を建てる仕事をしており、ゼネコンは高層ビルや大型施設を中心に、ハウスメーカーはマン戸建てやマンションなどの住宅建設を中心に行っています。

 

 三井ホームはハウスメーカーとして、戸建て住宅、中でも注文住宅を主に取り扱っています。注文住宅というと、同じ物件というものは無く、ひとつひとつがお客様のオーダーメイドのため、価格は少々高めになりますが、その分お客様にとって理想の家ができます。」

 

 

 -現在のハウスメーカーの市場はどのようになっていますか?

 「家というものはそう何度も建てるものではないため、人口減少下の近年でも着工戸数は簡単に増えるものではありません。家を建てるということはすなわち職人さんのような、様々な面で関わる人の雇用を増やす機会になります。ですから、国としても不景気の時こそハウスメーカーに支援をしてくれる場面は多いです。逆に景気のいい時に家を買うと金利が高く、ローンの返済額が大きくなってしまうのであまりお勧めしませんね(笑)

 

 近年では、小規模工務店が縮小し、大手企業が業績を拡大している業界でもあります。大手企業は海外にも進出しており、三井ホームの海外事業はほとんどが北米に集中しています。なぜハウスメーカーが海外進出できるのかというと、日本の家づくり技術は世界的にも評価されているからです。地震や台風、豪雨など、私たち日本人を取り巻く環境は厳しいですよね。その結果、過酷な環境に耐える家づくりの技術が磨かれ、世界に通用するようになったのです。」

 -同業他社との違い、三井ホーム独自の強みは何ですか?

 「三井ホームの物件は、同業他社と比べると平均2割くらい高い値段で建築されています。そのため私たちがターゲットする顧客は富裕層の方々が多いです。お客様の拘りに応える良い家を提供することに専念しています。それを踏まえたうえで、三井ホームの物件の強みは3本の柱からなります。一つは耐震性、次にデザイン性、そして快適性です。木造住宅・全館空調という点からこのような強みを実現しています。

 それから、三井ホームではメンテナンスやリフォームなども一括で取り扱っている点も強みといえます。これらがなければ物件の価格も安くはなりますが、それでは安心できる住まいづくりはできません。

 『快適さ』の面で言うと、木造の強みが出ます。木造の建物内では脳の集中力が上がるなどの科学的な実証がなされています。また、あまり大型ではない3、4階建て以下の建物の場合は、鉄骨の建築物よりも、共振しにくく耐震性が強いため、安心してご利用いただけます。」

 

-業界全体のこれからの課題はどんなことが考えられますか?

 「これからの課題としては、少子高齢社会に対応していくことが挙げられます。高齢者の方の持つ土地の活用は、その一つの解決策になりえます。近年では病院や老人ホーム、保育園といった施設の建設にも力を入れています。そういった「人を預ける場所」はやはり預ける側にとって安心できる空間である必要があります。特に保育園では、その第一歩として快適でデザイン性の高い保育園を作り、『この保育園で働きたい』と思う人を増やすことで雇用を増やし、結果的に受入数が増えることで、保育園不足の問題にも対応できると思っています。」 

-海外戦略は、北米以外の地域での展開は考えていますか? 

 「今後は北米だけでなく、オーストラリアへの進出も考えています。その理由は、三井ホームの売りである2×4(ツーバイフォー)構法の家作りが主流だからです。木造建築には、梁や柱を組み合わせた軸組と呼ばれる作りと、2×4という壁構造の作りがあります。軸組みは風通しが良いという点、2×4は逆に断熱性に優れるという点が特徴です。日本を含む多くのアジア地域では、高温多湿に対応するため軸組み工法が伝統的に行われてきましたが、近年では2×4の作りが増えています。理由としては、温暖化が進む中、風通しだけでは暑さに対応しきれないことが挙げられます。それならば断熱性のある住居に変えて、全館空調にした方が快適です。他にも花粉対策や大気汚染の対策にも効果的です。このように、住居も時代に合わせて変化を遂げています。」

 

-最後に、学生に求めることやアドバイスはありますか。

 「三井ホームに興味を持っている学生さんには、「人が好き」「モノ作りが好き」という2軸を持っていてほしいと思います。私たちの仕事は、「人」のために「モノ」を作ることだからです。入社してからも税金のこと、土地のこと、家の構造のことなどさまざまなことを学ぶことになりますが、それらを吸収していくだけの向上心があるといいと思います。向上心を持ってたくさん質問してくれる後輩は育てやすいですし、自身の成長も早いと思います。入社後の職種は営業をやったり人事を担当したりと、働き方はさまざまです。ですから学生時代から、いろんな世界に足を踏み入れ、いろんな話を聞いてみてください。アルバイトやサークルなど、常に人と話せる場所に身を置くことで、幅広いことに興味・関心を持ってほしいと思います。」

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この度、業界のことについて非常に丁寧にわかりやすくご説明いただいた。取材を通して、日本の家、そして家づくりという産業自体が、グローバル化や地球温暖化といった時代の潮流に合わせた変化を遂げているということが理解できた。日本が誇るモノづくりの技術は、人々の暮らしを支え、安らぎを与えてくれる家においても、世界に誇れる水準を持っている。そんな日本の家づくり技術のグローバル展開と、ハウスメーカーの今後の成長が期待できることがわかった。特に、三井ホームのモノづくりと人への拘り、2×4の将来性を感じた取材となった。

 

【就活生にとって1番重要で1番軽視しがちな自己分析】

先日開催した「業界選びに役立つ自己分析講座」では7人の19卒就活生が参加してくれました!

 

就活における自己分析は2種類あります。
1つ目は、自分にとってよい企業を見つけるための自己分析
2つ目は、行きたい企業に入るための自己分析

 

この講座は業界選びに悩む就活生が集まってくれたので、自分にとってよい企業を見つけるための自己分析を実践!
具体的には、
・モチベーショングラフ
・探索行動
これらを用いて自分の楽しめる出来事の特徴をとらえよう!というものでした。

 

イベント後、参加してくれた学生からはこんなコメントがありました!
・自分のことを振り返る事ができた
・自分のことを他の人にレビューして深堀してくれた。
・自分の知らなかった一面を知ることができたからよかったです。
・わかりやすくて感動っ

 

自己分析は他にも様々な方法があります。
WEBで自己分析について調べてみても、よく分からない
という人がいたらまず一度、先輩に聞いてみると良いです。

ミンスタではいつでも個別相談を受け付けています。
18卒の先輩や、様々な企業、業界のコンサルを経験された社会人の方々に
何でも相談できる機会です。気軽に使って見て下さい!

 

 

【個別相談申し込み方法】

①ミンスタ公式ラインと友達になる(ID:@minsuta)

②ミンスタラインにメッセ―ジを送信
※大学・学年・名前を添えてください

③その後、希望日程や相談内容を調整しましょう!

IR資料ワークショップ

 11月30日、金融リテラシーのセミナー講師や投資家として活躍している羅愛貴さん(早稲田大学商学部4年生)をお招きし、IR資料ワークショップを開催しました。
羅さんは高校時代から株式を通じた企業分析をはじめ、どんな企業でもガラスを通して中を見るように解説してくれるプロ顔負けのスキルの持ち主です。
・日本証券新聞記事寄稿
・中央大学法学部 講演会講師「金融リテラシーについて」
など、多方面で活躍されています。
ワークショップでは、IT資料という投資家向けの企業情報をどのように
見れば投資や就活の際に役立てるのか教えて頂きました!
コンビニ2社を具体例に、経営戦略の違いを考えるワークをしたり、
実際に投資家として目を養う方法などを学びました。
参加してくれた学生さんからはこのようなコメントを頂きました!
・企業研究の仕方が分かった!
・投資をする際に何を調べたら良いのか、詳しく知ることができた。
・企業の比較の仕方・戦略、四季報の具体的な見方などの説明がわかりやすかったです。
投資に興味を持っているけれど、実際に何をすればいいのか分からないと思っていた学生も羅さんのお話を聞いて次へのステップを学ぶことが出来たと思います。またIR資料は就活をしていく上でも役に立ち、就活生はIRの活用方法を学ぶことができました。
今回は投資に興味のある学生や就活生に対してIR資料の活用法を教えて頂きました。
ミンスタでは他にも様々なセミナーをしているので、ぜひ気軽に足をお運びください!
【特別講師】
羅羅愛貴さん(早稲田大学商学部4年生)
・日本証券新聞記事寄稿
・中央大学法学部 講演会講師「金融リテラシーについて」
など金融リテラシーのセミナー講師を務め、投資家でもあり学生起業家としても活躍中

【イベントレポート】サークル・学生団体の次期リーダー必見! 組織運営を成長させるマネジメント講座

 

去る12月16日、600名を超える学園祭運営組織の代表を務めた久保田健嗣さんを招いて、学生団体やサークルのリーダー向けにマネジメントの講座が行われました。本レポートでは、その様子をお伝えします。

 

 マネジメントの講座は、久保田さん自身が今まで培ってきたリーダー経験と、久保田さんが学習してきたドラッカーなどに代表されるマネジメントの知識を踏まえ、どう学生団体やサークルといった学生組織に、マネジメントをどう実践していくか、リーダーの仕事は何かということをお話していただきました。

 

 

 

 実はこの講座は、久保田さんの問題意識から生まれた講座でもあります。

 と言うのも、久保田さんは今まで大小さまざまな組織で過ごしてきて、学生のマネジメントへの知識・理解不足を痛感してきたのです。久保田さんは、学生団体やサークルの代表が、マネジメントの学問的にある程度の知見が蓄積されている課題に対して、そういった知見を無視、あるいは知らずに0から自分の頭で考えるのは非常に効率が悪いと言います。人類の叡智を獲得したうえで、すなわち頭にファイルがあるうえで職務に当たった方が、圧倒的に結果を出せると説きます。

そんな久保田さんが開いた講座を、以下に簡単ではありますがまとめました。

 

マネジメントとは何か

 久保田さんはまず、マネジメントの定義についてお話ししてくださいました。

 久保田さんは、マネジメントの定義を行うことは非常に難しく、かつ繊細な注意が必要なことだと指摘します。しかし久保田さんは、マネジメント講座を開く以上、マネジメントという言葉の定義が必要だとして、ドラッカーによる定義を参考とした学生組織のマネジメントの定義紹介してくださいました。それは、学生組織が成果をあげるための道具であり、機能であり、機関であるとのことです。

 この定義を受講生と共有したのち、マネジメントの講座は熱を帯びてきました。

 

 

マネジメントの実際の仕事は何か

 定義が分かったからと言って、すぐにマネジメントの実際の仕事が思い浮かびにくいのが難しいところだと久保田さんは指摘します。

 そんな中、久保田さんはまずマネジメントの課題として、組織の目的や目標を確立せよと訴えます。と言うのも、組織が成果をあげることに貢献するにあたって、そもそもその組織の目的や目標を確定することが出来なければ、成果も定義することができないからです。

 

 目的や目標が確定できたら、いよいよ成果をあげるための実行に移りたいところですが、その前にやることがあると久保田さんは言います。その一つとして久保田さんは組織編成をあげます。と言うのも、組織の目的が決まったからといって、役割分担が決まっていない状況で動こうにも動けないし、動いたとしても生産性が著しく低いからです。限られた時間の中で、生産性をより上げるために、組織編成の重要性を説きます。特に久保田さんは、学生組織が代替わりする時に、組織編成をそのまま何も考えずに引き継ぐのではなく、今の状況にその組織編成が本当に適しているか考える必要があると言います。逆に、自分たちに適した組織編成を求めて、時間を費やしすぎたり、他がないがしろになってはいけないと言います。組織編成は、成果をあげるためのツールであって、目的ではないということです。

 

 

 他にも、マネジメントの実際の仕事で欠かすことができないのが、振り返りだと久保田さんは言います。これは、振り返りの対象とする期間で二種類に分けられると久保田さんは言います。前者は、一週間から一か月ほどの振り返りと、一年ごと、すなわち学生の代ごとの振り返りだそうです。前者は、設定した目標に対する進捗度合いをチェックし、今後の方策を考えるものです。後者は、一年間を総括し、次年度以降に役立てるものです。特に、この一年ごとの振り返りが特に学生組織に欠けており、学生組織の成長が阻害される大きな要因だと語ります。と言うのも、その年に何を志して、何を実施し、何が成果で、何が今後の課題なのかを共有できないと、結局実質毎年0からのスタートになってしまうのだと、久保田さんは断言します。毎年0からスタートするのではなく、先輩たちの遺産を引き継ぎ、さらにその上を目指していくことこそ、マネジメントに必要不可欠なものだと久保田さんは言います。

 

 

以上が、簡単な久保田さんのマネジメント講座の概要です。

久保田さんは、まだまだこの他にもマネジメントとしてやることが他にもあると言っていますし、事実このレポートにその全てを書いたわけではありません。

 

 今回この講座は、参考になった、あるいは非常に参考になったと回答した学生リーダーが100%で、大変好評を博した講座です。

 今後も、この様な講座を久保田さんは開いてくださるようですし、いろんな学生組織の相談にのってくださるとのことなので、興味のある人はチェックをしてみてはどうでしょうか。

 

【プロフィール】

久保田健嗣(くぼた・けんじ)

東京都立国立高等学校卒業

現在、早稲田大学政治経済学部政治学科4年

米国コロンビアビジネススクール公式プログラムVenture For All Program修了生

これまでに600名を超える早大生が所属する早稲田祭運営スタッフの代表、

地元三鷹市の成人式実行委員会委員長、行政学を専攻する稲継裕昭ゼミのゼミ長などを務める。

【イベントレポート】 元アクセンチュア代表のトークイベント『コンサルファームでキャリアを重ねられる人材』

 

 

去る11月2日、コンサルティングファームとして名高いアクセンチュア元代表海野恵一先生をお招きし、開催したセミナーの内容をレポートします。2時間を超える熱演でしたが、本稿ではその様子をお知らせします。

このセミナーは、コンサルティング業界に興味をもっている学生向けに開催しました。大手コンサルファームでキャリアを重ねられる人材とはどのような人材なのか?どういったスキルが求められるのか?また、人脈の築き方などを語っていだだきました。

2時間を超える熱演でしたが、本稿ではその様子をお知らせします。以下、お話をいただいた内容をもとに編集しました。

 

戦略コンサルティングの仕事とはどのようなものか?

 

特に男子学生にとって、もっとも人気の高い業界の一つが戦略コンサルティングです。ここで少し、コンサルティングの業界を整理してみましょう。

 

まず、4象限からなるマップをイメージしてみてください。縦軸に取り扱う事業領域、戦略中心(上)か、システム中心(下)か。次に、横軸に業務を置き、リサーチ中心(左)かコンサルティング中心か(右)に分ける。この中のどこに位置するかによって、どんな特徴をもったコンサルティング会社なのかが大体分かります。アクセンチュアはその中で、上流の戦略から下流のシステム構築までを実施する総合コンサルティングファームです。

このような位置づけになっているので、アクセンチュアの組織はコンサルティング部門とシステム部門に分かれています。コンサルティング部門が戦略を立案し、それを確実にシステムに落として業務が完全に流れていくようにシステム部門がシステム構築を行います。

 

海野恵一先生のアクセンチュアでのキャリアの研究

 

アクセンチュア日本法人トップまで昇りつめた海野先生の仕事のスタイルを研究すると、戦略コンサル業界で必要なスキルや行動が見えてきます。

 

まず、海野先生のキャリアは、システム部門から始まりました。当時、トップ・エンジニアの月単価は800万円だったといいます。(今はもっと低い)その中で、世界の製造業の手本になっているトヨタのカンバン方式と言われている手法をコンピューターシステムとして具現化したのが海野先生です。また、インターネットの黎明期にソニーのメールシステムを構築したのも数多くある実績の一つです。

 

海野先生は、普通のエンジニアと何が違ったかというと、普通はコードを書く量が一日1,500行に対し、5,000行を書いていました。すさまじい集中力と、仕事量ですが、なぜこれができたかというと、ほとんどの時間を仕事に費やしていたからです。なんと先生は8年間もベッドの上で寝たことがないそうです。これを海野先生は「仕事が好きだったから」とさらりと言います。今ではこんな働き方をブラックと言いいますが、好きでやる分にはそんなことも関係ないというわけです。

しかし、現実的にコンサルティン会社では、顧客以上に顧客の業務に精通しなければならず、担当する顧客の業種もまた増えてくる。また任されるクライアントも大きくなってくるので、要求される仕事のレベルがどんどん上がってきます。

では、海野先生はどのようにキャリアに適応してきたのでしょうか。それは上司を見て仕事をしていたということです。「前乗りして見ていればわかる。」と海野先生はいいます。

つまり、上司がどんな仕事をしているのか詳細に観察し、取り組んでいる課題や、対処方法について研究するのです。その内容をシミュレーションしておけば、自分がそのポジションになったときに対応できるようになります。

 

コンサルティングとは戦争である

 

企業経営の観点では、ライバルとの競争に勝つためには、無駄なコストを削り、少しでも利益が出るようにマネジメントしていくことが必要です。

一方において、今まで自分がやっていた仕事がなくなる事業部や、社員が出てくることになります。結果、仕事がなくなる事業部は、コンサルティングに協力的ではないという事態が発生します。こんな場合には、企業経営者を介して、事業部の担当役員を変えてもらうといった荒療治も必要になる場合があります。まさに抵抗勢力との闘いです。

その時、現場にはアクセンチュアからコンサルタントを何人も送り込みます。コンサルタントにはこのような状況で、圧倒的な業務の量と、顧客企業とのコミュニケーション上の負荷がかかり、耐えきれず、体調を壊し退職していくメンバーも少なからず出てきます。つまり、実際には相当苛烈な仕事だと言えましょう。

 

気になる年収は?

 

しかしながら、そのハードワークの代償として年収は高いし、成長もできることは間違いありません。海野先生が代表を務めていた頃の報酬は2億円だったそうです。「ただ、それでも全然高くないよ」と海野先生は言います。コンサルタントの年収は、成果に対して支払われるもの、だから、もともと100億円規模の事業で15億円のコストダウンに成功すれば、5億支払ってもよいという話になるのです。

つまり、企業経営の上流の課題に関わっているので、少人数で上げられる成果が大きいため、コンサルタントに支払われる報酬は大きくてもよいということになります。

 

仕事のポリシー

 

海野先生は「かっこいい生き方がしたかった」と言います。海野流のかっこいい生き方とは、逃げないこと。そして、上司や部下を裏切らないこと。コンサルティングには失敗がつきものです。ミスがあっても組織や部下の責任を背負う。そして、上司や部下の失敗をカバーし、最後の一人になっても戦い抜くということです。

生き様として、このスタンスを貫いたことで、顧客からの信頼を勝ち取り、海野先生はトップへの道を歩んでいきました。どういう表現をするかは別にして、最後まで逃げずに責任を取るというのは、組織のトップに要求される普遍的な要件なのです。上に立ちたい人はいかなる場合でも逃げてはいけないということですね。

 

世界で通用する力

 

アクセンチュアは、海外拠点がありグローバルにコンサル事業を展開しています。すると、英語を駆使して仕事をしていれば、企業経営のノウハウは世界共通なので、世界中どこへ行っても活躍できるということです。かつ、世界での人脈を築くことができます。

海野先生自身は、この英語力を生かし、世界のリーダーの輩出機関、青年会議所のチェアマンとなりました。この結果世界の要人とのネットワークができ、それが退職後も継続しているといいます。

 

グローバルな世界での日本人としての矜持を教えるために海野塾を開講

 

日本人そのものが英語がネイティブではないので、世界で戦うにはビハインドを背負っています。深い会話をするには、TOEICは900点以上が必要だと海野先生は言います。これからのビジネスパーソンは英語で直接相手とやりとりできないと全然話にならないのです。

そのとき、TOEIC以上に重要なものがあります。つまり自分が何者であるかというルーツ、すなわち日本精神が語れる必要があります。「そういった矜持は、実は江戸時代には儒学を介して培われていました。それが幕末から維新にかけて日本人の精神、魂を全部捨て、実用的な知識に走ってしまった。」と海野先生は言います。先生は、現代の日本人に必要な矜持を「心の身だしなみ」と表現しています。

「塾では150年前に持っていた心の身だしなみをもう一度、150周年のこの時に取り戻そうとしています。ここでは江戸幕府時代に持っていた儒学を改めて教えています。大学では知識を教えますが、知恵は教えません。勉強しなくても生きていけますが、それがないと皆さん人生の大きな転機に対応できません」。世界を切り拓いていてきた先駆者、海野先生はこう語っています。

 

 

学生からの質問

 

Q:仕事が好きになるとはどういうことなのでしょうか?

 

A:究極的には忍耐やあきらめということになります。女性を好きになることと同じように考えればよいのです。相手からどんなに言われようが、それを含めて好きになる努力をすることです。ある面、それには強靭な精神力が必要ですね。

 

【プロフィール】

海野恵一(うんの・けいいち)

東京大学経済学部卒業後、アメリカの監査法人アーサー・アンダーセンに入社。アーサーアンダーセンがアクセンチュアに商号変更後、アクセンチュア代表取締役。

アクセンチュア退社後に、スウィングバイ株式会社を設立、代表取締役社長に就任。新速佰管理咨詢(上海)有限公司董事長、大連高新技術産業園区招商局高級招商顧問、大連市対外科学技術交流中心名誉顧問、無錫軟件外包発展顧問、対日軟件出口企業連合会顧問、環境を考える経済人の会21事務局員を務める。

現在、経営者育成を目的とした「海野塾」や、各種講演・セミナーなども含め、自己の向上や国内外の企業・社会のために精力的に飛びまわっている。

2001年 アクセンチュア 代表取締役

2004年 スウィングバイ株式会社 代表取締役社長

2004年 天津日中大学院 理事

2007年 大連市星海友誼賞受賞

2012年 海野塾塾長

 

著書

『本社も経理も中国へ』ダイアモンド社

『これからの対中国ビジネス』 日中出版

『2020年、日本はアジアのリーダーになれるか』 ファーストプレス

『日本企業はアジアのリーダーになれるのか』 ファーストプレス

『日本企業は中国企業にアジアで勝てるのか?』日本ビジネスプラン

『男としての心の身だしなみはできているか?』スウィングバイ株式会社

『アクセンチュアでどのようにして代表取締役になれたのか?』同上

『Major Controversial Issues at WWll』 (英語) 同上 (5月出版) 他多数

 

 

 

 

 

株式会社アプリ – 学生が企業と取り組む マーケティングの改善

 

最近、学生と企業の接点と言えば、まずインターンシップを思い浮かべるが、学生はややもすると一方的に企業側のコンテンツを押し付けられがちである。そうすると、学生にとってはスキルアップにつなげたり、自身の潜在力を確認することができない。

一方、学生と対等の関係をつくり、学生の力を引き出すプロジェクトを上手く運営している企業もある。今の学生は、情報量、活動量も多く、戦力になる可能性を十分に秘めている。ましてや学生が当事者にもなりうるビジネスであるならば、学生の視点は非常に重要であり、学生は積極的に参加すると良いだろう。

今回、学生と上手くコラボしている、観光分野を中心にした人材サービス会社アプリ社の販促品開発会議を直撃取材した。

 

販促品開発プロジェクト・キックオフ

 

─去る8月某日、新宿にあるアプリ本社の会議室には、事業部、広報のスタッフと学生7名が集結していた。学生メンバーとはこの時が初対面で、今日はプロジェクトの説明を行う日のようだ。

 

アプリ:こんにちは、私は当社でいくつか事業部がある中で、リゾート事業部を担当しております。リゾート地にある旅館やホテルなどに、弊社でご登録いただいたスタッフさんの紹介先を開拓する営業の主任をやっています。実は、私もリゾートバイトの経験者で、熱海と下田と箱根に行き、ホテルで住み込んで働いた経験があります。

今回、リゾート事業部の販促品をお考えいただくのですが、実際のスタッフさんはどういった気持ちなのかというご質問にも、細かくお答えできると思いますので、何でも聞いてください。

 

事業概要の説明

 

アプリ:社名からアプリケーションのアプリと間違われたりしやすいのですが、改めてどんな会社なのかを説明していきたいと思います。当社は株式会社アプリといいまして、英字表記だとAPPTLI。こちらは、我々が作った造語でして、アプリカント=応募者とレセプショニスト=接客係、あとは、プロフェッサ=専門家この3つの単語から作った言葉です。

応募者や、接客に心を向けながら人材サービスの専門家になろうという意味です。設立は2002年の3月なので、今年でちょうど丸15周年です。社員数は、グループ会社を含めて現在124名なのですが、実はここ3年くらいで倍増しています。

事業内容を一言でいうと、人材派遣・人材紹介の会社です。主にリゾート地に特化しており、他にも留学・ワーキングホリデーのサポート、訪日旅行客の支援などもやっております。企業理念は、『若者に価値あるchallengeを』と掲げています。

その意図としては、若者が多様な価値感、豊かな人間性、タフなメンタリティを身につけるためのチャレンジの場を提供すること。元々20代の方が多くて、その方々のチャレンジとは、しっかりお金をためて次のステップへ向かうことなので、そのような方の背中を押してあげようという想いを我々は常に持ちながら事業をしています。

企業理念を実現するため、昨年に2つのサービスが始まりました。それが、『Tokyo Dive』と『Global Dive』です。Tokyo Diveは、名前からもわかるように上京のお手伝いをするサービスです。Global Diveに関しては、留学・ワーキングホリデー・バックパッカーのサポートをしています。

この3つの柱なのですが、この新しい2つのサービスができたおかげで、「リゾートで働いた後に東京で働きたい」「海外で英語を学びたい」という声が登録スタッフさんから上がってくるようになりました。ワンストップでサービスを受けられるという声や、相談していた当社スタッフに続けて相談できるなど、とても好評をいただいています。こういったサービスを提供するだけではなく、留学から帰ってきて、これからの仕事どうしようかなという相談にも乗っています。

こうして色々な若者のチャレンジを繋ぐことができるのですが、我々は、この1サービスを提供することを1カウントとして、『つなぐチャレンジ』というプロジェクトをやっています。そして、2025年までに100万チャレンジを目指しています。

 

会社が大切にしていること

 

 

アプリ:当社が大切にしていることは、「当たり前のこと」をやること。アプリにとっての当たり前とは、コミュニケーションです。特に大切にしているのはスタッフさんとのコミュニケーションですね。実際にどんなことをしているのかというと、仕事に入る前の準備物の案内はもちろん、飛行機・新幹線・高速バスなどの予約を取り、自宅からの経路を希望に沿って細かく相談にのります。

また、地元を離れて不安を感じる方も多いので、そういった不安を少しでも和らげてもらうために、営業社員は定期的に電話をしたり、実際に職場へ会いにも行きます。東京本社で近い場所でいうと箱根や熱海。遠い場所だと長野まで行き、「お仕事順調ですか」「不安な部分は無いですか」などをヒアリングします。その際には差し入れにお菓子を持って行ったりもします。

 

今回フィールドとして取り組むリゾートバイト事業とは?

 

アプリ:さて、いよいよリゾートバイトについて掘り下げてご説明したいと思います。リゾートバイトというのは、全国のリゾート地にあるホテルや旅館などで、寮に住み込みながら働くお仕事です。ですので、都市部の居酒屋でアルバイトするよりも、非日常的な体験ができます。

実際に、どんなお仕事をしているかというと、ホテルですとフロントやレストラン、旅館ですと仲居などです。あるいは接客が苦手な方は、ハウスキーピングや皿洗いなどの裏方をすることもあります。また、季節によりますが、夏は沖縄でマリンスポーツの受付をしたり、冬はスキー場でリフト係をするお仕事もあります。

お仕事の平均期間は大体3カ月程です。3カ月やってみて、この現場でもっと働きたいとなれば延長することも可能です。最終的には職場に正社員として就職した方もいます。

 

販促品を開発するミッション

 

アプリ:今回は、就業中スタッフさんの満足度向上、新規登録者への登録促進、この2点を踏まえて販促品を考えるのがミッションです。その際、つなぐチャレンジプロジェクトを訴求していくことも忘れないでください。

現在当社が扱っている販促品は、エコバックを活用したつなぐチャレンジのPRであったり、弊社サービスを記載したカレンダーです。ちなみに、誕生日タンブラーというものもありまして、こちらはスタッフさんの誕生月にお渡ししています。

 

会社のことをよく知る

 

ファシリテイター:皆さんが、今回のミッションに取り組むにあたっては、1つの船のクルーと思ってください。今回の皆さんのミッションは、今、まさに出していただいた課題に対して答えることによって、もっと販売促進することができるか、売上を伸ばすことができるか、スタッフさんの登録を伸ばすことができるか。

そして、リゾートバイトというもの自体が、もっと世の中で価値が高まり、それ自体が日本だけではなく世界にも広がっていくような、そういうようなものに、たった1つの販促品かもしれないのですが、つながっていくと思ってください。

では、そのためには、企業から課題をもらって一番最初にやらなければいけないことって何だと思いますか?

 

学生:業界分析でしょうか?

 

ファシリテイター:業界分析も大事。すごい当たり前で、そんなこといちいち聞くなよっていうかもしれないけれど、業界分析と同じくらい重要なことは?

 

学生:自社分析ですかね?

 

ファシリテイター:そう、自社分析と専門用語的に言っていただいたのですが、会社のことを知る、社員の方のことを知る。会社って元から箱みたいなものがあるわけではなくて、ある創業のメンバーの方たちが、起業するのが始まり。何かをかたちにするのが起業であり、それが、次第にお客様を得て、お金が流れて、社員の方が増えていって、1つのビジネスが始まる。

なので、すごく大事なのは、どういう想いで始まって、どういうことをやりたいのか、その会社のことをよく知ることが、すごく大事になります。

先ほどのつなぐプロジェクトでいえば、スマホでも見れますが、このようなサイト(https://apptli.co.jp/tsunaguchallenge/)もありますので研究してください。

では、みなさんの頭の中でイメージをしっかり持つため質問をしてください。

 

学生:1人何回くらいリゾートバイトに行かれるんですか?

 

アプリ:20カ所以上の現場に行かれている方もいます。また、同じ現場で長く続けたほうが、仕事を覚え直さなくて良いという考えの方や、色々な仕事を経験することで、先の目標を見つけたいという方もいます。リピーターの方も比較的多くいて、2〜3カ所に行っていただく方が多い印象です。

 

学生:面接のタイミングで、「私、海外に行きたいんです」っていう人は大体何割くらいでしょうか?

 

アプリ:最近は特に増えてきているように感じます。意外と海外志向の方が多くなり、「英語苦手なんですけど、色々な方と関わりたいという気持ちがある」という方もいて、3人面接すると2人くらいは海外に興味を持っている印象です。

 

ファシリテイター:ミッションは、社内資料では販促グッズ開発プロジェクトとなっていますが、これは当然、販促品というものを作らなければいけない。アイディアではなく作るということです。

 

学生:予算はどれくらいなんでしょうか?

 

アプリ:予算は1個200円くらいと考えてください。

 

学生:配布する数量はどれくらい?

 

アプリ:就業者向けでしたら、だいたい1万個くらいです。

 

ファシリテイター:今回の課題をよく理解するために、まず会社のことをよく知るということをやっていただきました。さらに、質問していただくことで、課題を明確にするということをやっていただいた。言葉って意外と難しくて、課題を出す側が言っていることと、受け取る側が認識していることが違っている場合がよくあります。

将来のビジネスの中では、せっかく考えたのに「いや、ちょっと違うんだよ」とか、いろんなことが起こります。なので、自分は課題を本当に理解できているのか、コミュニケーションをとって確認することが、ビジネスの上でもとても重要になってきます。

 

アイディアを出す

 

ファシリテイター:じゃあ、コミュニケーションを途中でもやっていただきながら、次は、一番大事なポイント、アイディアを出すことを最初にしていかなければならないのですが、アイディア出しには何が大事かというと、量が大事なんですね。グループワークとかで、アイディアを一番最初に皆で出す時、どれくらいの個数が必要か?

ビジネスでよく言われるのが100個。1人100個です。それぐらいの量を考えるということが、日常のシーンの中で与えられるいろんな課題や、クライアントからの課題に取り組むために必要です。実際に100個というのは、今回はいきなりやってくださいとは言わないですが、今与えられている『販促品を考えよう』というものについて、50個くらいのアイディアを考えることにトライしてください。

50個の考え方、アイディアの出し方なのですが、アイディアを考えていく時にすごく大事なのは、まず、今日皆さんここにいらっしゃるのは、大学生の方。で、自分っていう視点だけだと、自分としての好みとか、自分としての好き嫌いとか、自分が経験してきたことの中でしかアイディアが浮かんでこない。

そこで、視点をずらす。視点をずらすというのは、自分以外の年齢層、自分以外の性別、自分以外の国籍でもいいし、あるいは趣味でもいいし、違う人の視点にどれだけフォーカスできるかということがアイディアを増やしていく。自分を中心に考えると、その中で経験してきたことでいうと、10~20個くらいアイディアを考えるのが限界値です。さて、自分の視点をずらすのって、どうしたらいいと思いますか?

 

学生:やっぱり周りの人に聞いたりする。家族とか友人とか親しい人に聞いて、その人に視点をずらす。

 

ファシリテイター:良いと思います。他にありますか?

 

学生:アンケートとかを作って、ツイッターで発信します。

 

ファシリテイター:そうですね、今は便利なツールがたくさんあって、ソーシャルとかいろんなツールで繋がって、一緒に考えることができる。そういう意味では、アイディアシェア。たくさんの人と繋がって考える。そういうのはまさに、そこに参加してる人たちがみんなで考えるとすごい。
自分以外の人に聞くこと以外に、自分の頭の中だけでどうやってアイディアを増やすことができるか?

 

学生:あるものとあるものを一緒に組み合わせる?

 

ファシリテイター:いいですね、例えばどんなものを?

 

学生:例えば、よく使う日常品の文房具×行事とか、場所とか、そういう組み合わせを数多く考える。

 

ファシリテイター:要は、組み合わせという時に大事なのは、普通だと組み合さないものを組み合わせる。そういう日常品と場所とか、頭の中であえて異質なものを組み合わせると、面白いアイディアが生まれます。普段ありえないだろうと思うものを、あえてくっつけてみる。

そして、いろんなバリエーションをどんどんどんつくっていく。実現可能かどうかは、アイディアの中では1回忘れる。つまり、他の人が考えつかないようなものをどれだけ豊かに考えつくか、アイディアの量からそれは生まれてきます。

空間や、時間、シチュエーションの要素も重要ですね。場所のバリエーションを増やすのと、あとは季節などですね。冬の北海道のリゾートでもらうのが嬉しいものと、沖縄のリゾートで貰うのが嬉しいものは当然違う。他にも、人と人とが繋がる時に、誰かから何かを貰うとかっていう時に、どういう渡すきっかけがあるのか、シチュエーションです。どういうシチュエーションで渡すのか。

こうやっていろいろな切り口からアイディアを増やしていく。そうやって考えてくと、それぞれごとにアイディア50個なんてすぐに出ます。

この後に、ステップとして絞り込みが入ります。最終的に何をして、どのアイディアにするか決断しますか?

 

フィールドワークでアイデアを絞り込む

 

ファシリテイター:さて、次のステップ、ビジネスでは商品開発において重要視するのは、フィールドワークなのですが、実際にそれをやってみた時、そのアイディアの中で絞り込んでいく50個の中で最大3つに絞っていく。

その3つについてフィールドワークしてみた結果から、最後に1つに絞る。いろんな人に聞くでもいいし、いろんな人に類似品やプロトタイプを試しに使ってもらう。フィールドワークをやることによって、リアリティが生まれ、それを選ぶ人にとって、どんな人が、どんな使い方をするのかということを一緒に提案すると、根拠が生まれます。

なぜそのアイディアがいいと思っているのか、自分1人が思っているだけではなくて、これだけの人が、こういう属性の人が、あるいは実際にそれに対してこういう反応だったという根拠を手にすることによって、アイディアが提案に変わります。

で、最終的には、この提案をプレゼンというかたちで、次回皆さんが集まっていただく時には、お1人ずつプレゼンをしていただきます。このプレゼンが最後、実際によければそれをアイディアとして採用し、販促品を制作していくことになります。

 

提案書の作成

 

アプリ:学生の皆さん、フィールドワークをしっかりやっていただき、リアリティのある提案を楽しみにしています。次回の再会が待ち遠しいですね。

 

◆ ◆ ◆

 

学生による提案

 

─今日は、いよいよ学生がフィールドワークを終えて、それぞれ考えた販促品を提案する会議だ。巨大モニターを使って1人ずつ学生がプレゼンする準備を始めた。

 

アプリ:今日は皆さんの発表を心待ちにしていました。是非リラックスして発表をお願いします。本日のプレゼンですが1人10分の持ち時間。1人7分間を目処としてプレゼンをしてください。質疑応答を3分間行います。
それでは順番によろしくお願いします。

 

《慶応大学 Wさん》

突然ですが、みなさん、10代~30代で一番応援されたい芸能人は誰か知っていますか? 例えば、この方です。その彼をモチーフにしました。ご存知の方も多いと思いますが日めくりカレンダーです。中身はこのようになっていまして、彼の面白い写真とカレンダーとしては異例の120万部数を売り上げたと。

そこで私が今回提案したい販促品は、社員さんの写真が載っている日めくりカレンダーです。アプリの社員さんが応援してくれるカレンダー。実際に社員さんの写真を拝借してイメージの画像を作らせていただきました。

実際の中身としましては、シンプルなもの、ネタも挟んだギャグ系のもの、リラックスするための豆知識系のもの。これを考えるにいたった経緯をこれからご説明させていただきたいと思います。

今回提案するにあたって、参考にしたのは、私自身の経験、また、私のまわりにいるリゾートバイト経験者に聞いてみました。まず、リゾートバイトにくるような人がどのようなタイプに分かれるのかということで、4タイプに分類してみました──(以下、Wさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:質問というか、純粋にすごいなと思いました。通常のカレンダーと化していた今の販促品ではなく、スタッフさんが頑張る為の応援ができている印象ですごく良かったと感じました。しっかりとリゾートバイトへ行く人の分析をしているのがすごいと感じました。ありがとうございます。

 

《慶応大学 Aさん》

まず、初めにアイディアを3つ出して、リゾートバイト経験者にヒアリングを行いました。その中のどれがいいかと選んだものの答えは、目覚め時計です。新規登録見込みのスタッフさんへのアピールをするためには、リゾートバイト中に使うものが大事だということで、最終的に録音機能付き目覚まし時計を提案します。

これの強みは、最初から友達同士でお互いの声を入れて目覚ましにすると、毎日、疲れた時とか、関係が希薄になることもなく、一体感を持つことができる。最後に家に帰ってからも、リゾートバイトが終わりになってからも使える──(以下、Aさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:質問ではないんですけど、私の感じたことです。就業先によっては、出勤が5時半だったりすることもあり、携帯電話でアラームをかけても、なかなか起きられない方もいます。

その対策として、目覚まし時計を買うことを薦める時もあります。録音機能付きだったら、家に帰った後も、思い出として残せるので実用的にもいいかなと思いました。

 

《中央大学 Mさん》

僕が提案させていただくのは、チャレンジノートというもので、スケジュール帳のようなものです。どういったコンテンツかというと、手帳として使えるのはもちろん、目標の設定なども行える、ビジネス型のスケジュール帳。こちらを提案したいと思います。

内容は、まず世界地図があり、今後自分が訪れたい国などが視覚化されます。次に、リゾートバイトなどについてのFAQ。例えば、リゾートバイトやっていて困ってくることなどは、皆同じであることが多いです。且つ、そのリゾートバイトに来られる方の9割くらいが初めての方だったり、皆同じような疑問を持ちます。手帳の中に、そういった部分についてお答えするところが付いてれば良いと思いました。

で、具体的な提案内容といたしましては、目標を可視化できるような手帳を作成。なぜか? 目標を常に目にする。チャレンジしやすくなる。プラン立てをする。枠を作ってあげて、書きやすくしてあげる。

根拠となる統計データがありまして、スケジュール帳に書き込む内容を男女1000人に取ったアンケートがあります。20代から50代まで年齢層があって、さらに20代では約20%が目標や夢を記入している。30代から50代に比べて、20代が圧倒的に夢を手帳に記入している──(以下、Mさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:よく分析されていてすごいなと……後でデータをもう一度見たいと思いました。内容としては単純に良いなと思いました。特に目標を持ったスタッフさんが多く、to doリストを活用している方もいます。

ただ、スマホで管理している方も多いので、あえて手帳は不要かなと思いました。地図が結構良いなと。旅行好きな方も多く、世界地図だと行った場所の記録もしやすいし、良いと思います。ありがとうございます。

 

 

《拓殖大学 Cさん》

僕からは、ストレスリリーサー・グッズの提案です。今回、いきなりなんですけど、グッズのイメージ図をお見せします。こちらは、手を繋ぐ人で、アプリさんのリゾートバイト、世界でいろんな友達をつくって、自分のネットワークを広げるというイメージを提案にしました。

次に、スタッフさんはいろいろ海外に出たいと言っているので、それをサポートするイメージで、地球を描いて、つなぐチャレンジをPRします。さらに、こちらは単純にキャラクターのアプリレンジャーの活用。とりあえず、この3パターンです。

で、提案です。使いやすさや外観を重視しつつ、さりげなく入れること、あと、複数の機能をつけること。一応僕としては、まだ考え中なんですけど、ストレスリリーサーと電球をつける。友人およそ20人にリゾートバイトをするとどんな不安があるかを聞きました。すると人間関係のストレスが多い。そのうち7割以上の人がストレスリリーサーが欲しいと言っていました。

 

アプリ:握ると光るやつ? ちなみに流行ってる?

 

学生:そうですね、雑貨屋とか。結構女子高生の間で流行っています。

 

アプリ:へ~。ありがとうございます。

 

 

《近畿大学 西井香織さん》

私の提案は、『リゾート地でダイエット』となっています。タイトルは、お金も体も手に入れようとする女性の新規登録スタッフの獲得を狙って、今回考えました。現状のダイエットアプリの登録ユーザーでは女性が多いということがわかっています。マーケティング会社の調査によると女性の3人に2人がダイエットアプリを使用しているそうです。

で、その3人中2人が使っているダイエットアプリでは体重に関する機能を最も使っているらしくて、そこから書き込めたりします。今回提案する販促品内容が書き込み式のダイエットマニュアルカレンダーです。1日目、こういうことをして……というカレンダー。

今回、この提案になった理由として、いろいろ考え、他のリゾートバイトにはない付加価値、リゾート地に行きながらできることってなんだろうと考えました──(以下、Nさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:確かに女性誌さんとコラボしたりできますね。リゾート地でダイエットってあまりどこも使ってないフレーズだと思います。きれいな景色で、外で何か活動している風景とかのイメージがあればいいなと思いました。ありがとうございます。

 

《慶応大学 Sさん》

こういった差し入れって、しませんか? コスト削減を重視した、うまい棒のような。私は、ある結婚式場で働いているんですけれど、風船や大根といった差し入れをたまにいただきます。大根1本いただいても嬉しいんですけど、持って帰るのは実際大変。かたちだけの差し入れではだめで、職場で喜ばれる差し入れとはなんでしょう?

1つ1つ100円、120円で、人数配るとなると金額も増えるので、1人1個。全員で1つで済むようなものを考えました。大体1人1部屋においておけばいいものは何か。そこで注目したのが水分補給用のウォータージャグです。今のところ、水分補給は自分でやっていると以前お話いただきました。

では、今の現在の大学生は、アルバイトでどうやって水分補給しているのか? これがそのデータです。おおよそ50%は会社で冷水器やお茶を配っている。40%はお母さんが飲み物を準備するなど自腹。残りの8%はバイトしていない人。40%の人たちに、もし無料で飲めるお茶があったらどうですか?という質問をしました。そうすると60%が欲しいという回答でした──(以下、Sさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:夏に関わらず、水分補給には実際にお金がかかる。ペットボトル飲料を買うより、お金を貯めたいというのが心情で水分補給は課題です。

 

学生:ホントに目立つデザインとかにすれば、もし会社のほうにもありましたら、もう全部同じものを揃えますので、そのまま貼り付けるでいけます。

 

アプリ:いいと思います。ありがとうございます。

 

《青山学院大学 Kさん》

スタッフの皆さんに実際に使っていただきたいということで、今回はリゾートバイトの経験者4人にアンケートした調査をまずご紹介します。1日のうち、睡眠、食事を除いた他の自由時間を平均で約6時間と、結構大きめの数字がわかりました。また、同じ職場で働いているメンバーは3人~10人です。

ここで私が考えたのは、もしかしたらスタッフさんの中には、時間を持て余して暇だなと思っている人も多いのではと。家族や友達と離れて淋しい、他の部屋の同僚の人たちと仲良くなりたい。

そこで、思い切って提案させていただきます。株式会社アプリのオリジナルトランプ。スライドは私がデザインさせていただいたものです。つなぐチャレンジ、あとアプリレンジャーとかを入れたらもっとかわいくなる。

ではなぜ、今、トランプか? カードゲームの人気が日本玩具協会の調査では、29名に聞いたところ、人気の2番目がトランプ。しかし、トランプの保有数は、ゼロ、1の人が50%になっています。これに対して、旅行中、遊んだことがある人、遊びたい人が全体で100%。遊んだことはない、遊びたいと思ったこともないという人はゼロです。

さらに、トランプの遊び方で現在の学生が知っているのは、7~8通り。もし、遊び方がもっと広まればもっと使われます。そこで、トランプが良いと思っています。具体的な実行方法なのですが、渡す時は、スタッフさんが旅立つ時に、「他のスタッフさんと仲良くなってください」と渡す。

利用場面としては、まず最初にバイト先で、他のスタッフさんを巻き込む。トランプなので、ずっとカードを眺めているわけで、つなぐチャレンジなどについての会話も生まれると思います──(以下、Kさんによるプレゼン/後略)

 

アプリ:しっかりとストーリーができていてすごい。トランプにアプリ社員の写真も使えば面白いのかな。全然考えてなかったんですけど、すごい面白いと思います。

 

講 評

 

アプリ:今回ミッションを考えていただく中で、少しでもリゾートバイトであったり、弊社の事を考えていただけただけでも嬉しいです。勝手ながら評価をつけさせていただきましたが、1番、2番というのではなく、良い提案をしてくれた方ベスト3を発表します(3名の名前を読み上げる)。

アイディアの新鮮さであったり、どのくらい論理的にお話ができているのか、あとは事前の調査という部分を指標に選定をしました。もちろんベスト3の方以外の案も非常に斬新なアイディアがあったので、私共としても今後の参考にさせていただければと思います。ありがとうございました。

いろいろと迷いながらベスト3の方を選びました。分析をしていただき、リゾートバイトで働く方の想いや、プロフィールを作ってくれたのを見て、自分たちも初心に戻って考えられました。こちらこそありがとうございました。こちらで締めさせていただきます。

本日はどうもありがとうございました。

 

 

【企業情報】
会社名:株式会社アプリ(Apptli Inc.)
・コーポレートサイト https://apptli.co.jp/
・はたらくどっとこむ https://hataraku.com/
電話番号:03-6311-9833
代表取締役:庄子 潔
本社所在地:〒160-0022
東京都新宿区新宿3-1-22 NSOビル4F
従業員数:124名
年商:50.4億円(2016年度)