文:卜承漢(ぼく すんはん) 写真: 周依琳(しゅう いりん)
取材先:ダイドードリンコ株式会社 人事総務部人事グループ 中野絢様、山下実菜美様、渡邉彩様
業界:飲料製造
ダイドードリンコ株式会社は、飲料の自動販売機設置台数が全国で28万台を超える、学生にとっても非常に馴染み深い会社だ。ダイドーの社名は、元々の設立母体である「大同薬品工業株式会社」の“大同”に由来するが、さらに意味を付加して「ダイナミック(Dynamic)」にチャレンジを「行う=ドゥ(Do)」という企業精神を表して「DyDo」としている。また、「ドリンコ」は英語の「ドリンク(Drink)」に、“仲間・会社”を意味する「カンパニー(Company)」をプラスした造語だ。全体として 「ダイナミックに活動するドリンク仲間」を表現しているそうだ。今回、中野様、山下様、渡邉様に学生数名で取材させていただいた。
-御社は飲料業界では、製品開発から販売までを手掛けられています。御社の全体事業戦略と各セグメントごとの事業戦略の関係について教えてください
戦略の大枠としては、中期経営計画の中で2018年度を最終年度として、4つのチャレンジについて取り組んでいます。一つ目は既存事業成長へのチャレンジです。現在、売り上げのほとんどが自動販売機によるものです。この自販機ビジネスを強化し、キャッシュフローの継続的な拡大を図っています。二つ目は商品力強化へのチャレンジです。商品自体のブランドパワーをより高めることに取り組んでいます。三つめは海外展開へのチャレンジで、イスラム圏のトルコに新しい戦略拠点を構築し、輸出ビジネスの拡大に取り組んでいます。最後は新たな事業基盤の確立へのチャレンジです。飲料、食品だけでなく、M&A戦略により、新たな収益の柱確立に取り組んでいます。
-世界的な企業も含め競合他社がひしめく業界での御社の経営の強みについて教えてください
経営面では①自販機②コーヒー③ファブレスの三つの強みがあります。①自販機は全体売り上げの85%以上占めている中核事業です。②商品でいうと、飲料売り上げ全体の50%を占めるコーヒーが強みです。特に、当社は香料不使用のコーヒーづくりを行っており、香料で香るのではなく本来の豆の香りが飲み終わるまで継続することにこだわっています。これは「こころとからだにおいしいものを」提供したいという思いから、創業からずっと守り続けてきた当社の精神です。③ファブレスは、fabrication facility(製造施設)とless(ない)を合わせた言葉で、自社工場がないという意味です。協力している会社に製造・物流を委託しています。なぜそれが強みかというと、全国約30ヶ所の工場で現地生産し、現地消費を可能とすることにより、物流コストを抑えることができるからです。また、工場建設という設備投資のリスクを回避することができます。これらにより、経営資源を効率よく運営することができ、限られた資源を商品の企画、開発、自販機オペレーションなど、必要なところに集中することができます。キャッシュフローの面でいえば、 協力会社に掛け買いをするという方法を採っています。そして売上金の回収は自販機からの現金主体なっていて、収支ギャップが常に小さいです。その結果、安定したキャッシュフローが確立されて、確固たる財務基盤を持って経営を推し進めていることも強みと言えます。
-以上の事業戦略を遂行されるにあたって、御社が採用したい人材の人材像について教えてください
当社で求める人材像は、若手からチャレンジできる風土を利用してそれを生かすことができる人材、つまり、チャレンジ精神に満ちあふれて失敗を恐れずに実行できる人、主体的にレールを引ける人です。先に述べたような当社の三つの強みが今の時点では強みとしても、それがいつまでも当社の強みであり続けるとは言えません。外部の社会と環境の変化により変わっていくかもしれません。その世界の流れの中で、当社は、若手からチャレンジできる風土が確立されているのが強みです。社長の髙松富也は42歳と若いので、その分社員との距離が近く、若手の意見も聞きながら、会社全体でどんどんチャレンジを推進しています。このように、当社ではチャレンジ精神が浸透しており、若手にも積極的に機会を与えています。たとえ失敗しても良いので前向きに取り組むことを推奨しています。私も人事グループに配属されてすぐに上司から、「どんどん主体的にやっていってほしい」と言われました。基本的には自分一人に全部の過程を任せてもらえるため、最後まで自分の力でやりぬく達成感があり、その中で成長することができるのです。
-御社はボストンキャリアフォーラムに参加されていますが、留学生に性格的なソフト面と学歴などのハード面の二点において、どのようなものを期待されているのか教えてください
当社は自販機ビジネスとして成長してきたので、自販機ビジネスに強い人材が多数です。現在、当社を取り巻く環境は変化しているため、その変化に対応できる多様な人材が必要となっています。留学経験がある学生には、海外経験によって広まった視野や語学力を生かして社内をより活性化させることができる人として期待していますが、当社は採用の際、育成の観点からハード面よりはソフト面を重要視しています。なぜかというと、ハード面は会社に入ってから身に着けることができるからです。もちろん、ハード面のスキルを備えていることは有利です。海外事業部で担当できる幅も広くなり、活躍できる部門も多くなります。しかし、入社時点でのスキル不足を理由に配属が限定されたり、採用されないということはありません。知らないことに対し、先輩や周りの人の話を素直に吸収できる人、かつ自分の意見も持ちながら、違う世界感に触れたり、知らなかったことを教えてもらったとき、それをどうやって活用し、自分としての色を出していこうかと考えられる人と一緒に働けることを期待しています。
-これから就活を迎える大学生に一言アドバイスをお願い致します
アドバイスの前に逆質問になりますが、就活にあたって、どのような業界が気になっているとか、こういう仕事がしたいということが決まっている人はいますか。やりたいことが明確に決まっていることも大事ですが、何事にも二面性(表裏)があって、今自分が考えていることや当たり前だと思っていることがもしかしたら固定観念かもしれないので、そういう意味で色んな企業を見てほしいです。就活だけでなく、生活するうえでも、自分が選択した行動が固定観念によるものかもしれないということを思いながら、常識と思っていることを非常識と捉えてみようと意識することが大切です。元々自分が思っていたことが違うと気が付くかもしれないし、さらに自分の考えが明確になるかもしれない。そんな意識を持って生活してほしいです。そのための手段としてインターンシップに参加したり、企業について深く知ることが重要です。
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この度、業界や独自の事業展開について非常に丁寧にわかりやすくご説明いただいた。取材を通して、身近な飲料メーカーも、広い視野でグローバル化の潮流に合わせた変化を遂げていることが理解できた。モノづくりという産業にも関わらず、自前の製造にとらわれるのではなく、ファブレスという差別化戦略を取り、またいかに時代の変化に適応していくか考えられていることが印象深かった。社員との距離を縮めて若手の声に傾聴し、常に革新的な姿勢を維持しようとする社長のスタンスも理解できた。無香料という品質へのこだわり、またファブレスという思い切った戦略など、チャレンジする企業としての将来性を感じた取材となった。