サイバーリンクのAI顔認証「FaceMe®」で広がる顔認証技術の可能性

サイバーリンク株式会社(以下サイバーリンク)は、これまで高度な顔認証技術の技術開発を続けてきた。

同社のAI顔認証エンジン「FaceMe®」は2021年4月27日、機能のアップデートを発表した。今回のアップデートでは顔認証精度のさらなる向上や、iPhone、iPad Pro のFace ID で使用している 3D カメラを活用した 3D なりすまし防止機能への対応、「e-パスポート」への対応が行われるなど、さらなる顔認証技術の活用が期待できる内容だ。

今回はそんな顔認証技術のトップランナーであるサイバーリンクの事業担当者である萩原英知氏に、FaceMe®のアップデート内容や今後の顔認証の可能性について話を伺った。

 

FaceMe®実用化までの経緯

サイバーリンクといえば、知る人ぞ知るマルチメディア関連ソフトウェア分野のリーディングカンパニーである。顔認証技術では、いわば後発組だ。

そんなサイバーリンクのAI顔認証エンジン「FaceMe®」が、今やアメリカ国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで世界最高水準の技術として高い評価を受けている。

サイバーリンクがなぜ世界最高水準の顔認証技術を獲得したのか。

萩原氏に、まずFaceMe®の開発経緯を聞いた。

『私たちの得意としてきたマルチメディア関連ソフトは、パソコン用の動画再生や編集用のソフトウェアです。しかし、世界的にパソコンの販売台数が減少する中、将来を見据えて、私たちのコア技術を生かして、法人向けにビジネスを展開していきたいと考えていました。

まずは、WEB会議ツール、ウェビナーのサービスをリリースし、さまざまなお客様に活用いただいております。。そして、さらなる展開として、以前から我々は動画内のオブジェクトトラッキングや、顔認証によりログインできるソフトを開発していたこともあって、それをディープラーニングの技術を融合し発展させることで、様々なデバイスや認証システムに搭載可能な顔認証エンジンFaceMe®を開発することに成功したのです』

 

顔認証技術はなぜ有効なのか

顔認証を含む「生体認証」は、人間の体の一部を使って個人を特定する認証方法のことだ。

生体認証はeKYC(電子的な本人確認)のために多く利用されている。従来、金融機関の口座開設手続きなどは窓口などオフラインで本人確認が行われてきたが、これをオンライン上で完結させることで企業のコストや顧客の手間を省くことができる。

生体認証は顔認証の他にも指紋認証や虹彩認証などがあるが、顔認証は生体認証の中でも導入するメリットが大きいと萩原氏は語る。

『一番は、デバイスと接触する必要はないということ。これはコロナにおいても重要視されています。接触しなくても良い生体認証は他にもありますが、顔認証はデバイスと離れていても良いという特徴があるため、特にコロナ禍では大きなメリットになっています』

萩原氏が語るように、指紋認証などの生体認証はデバイスとの直接的な接触が必要なため、衛生面や感染予防の観点から課題が残る。顔認証であれば、対応するカメラとの人との距離が保たれるため、コロナ禍において大きなメリットとなるのだ。

 

「e-パスポート対応」で何ができるのか

FaceMe®は今回、パスポートのICチップに記録された情報を活用した本人確認に対応したと発表した。

萩原氏によると、現在利用可能とされる一般的なeKYCは、本人確認手続きとしてまだまだ普及しておらず課題もある、よってより信頼性の高い本人確認技術を確立することが目的だったと言う。

『FaceMe®では、2段階で本人確認を行います。まず、eパスポートの表面に印刷されている写真や記載情報を取得して、パスポートのICチップ内に入っている情報も読み込みます。この両方の情報が一致するかをチェックして、パスポートが本物であることを確認します。次に、ICチップ内の情報と、その場にいる本人の顔認証を行います。これにより、より信用性の高い本人確認ができるのです』

例えば、写真データ自体が改ざんされ、その本人がその場で顔認証をしたとしても、表面に印刷されているパスポート情報やICチップの情報と整合しなければ認証をパスできない。

このように、パスポートの記載内容と埋め込まれたICチップ、そしてその場にいる本人の情報を顔認証技術でチェックすることで、より確かな本人確認が可能になるという仕組みなのだ。

 

アップデートされたFaceMe®の「第6世代顔認証モデル」とは

今回のアップデートでは、「第6世代顔認証モデル」の搭載が発表されている。

『前提として、顔認証の世界では、認証率が100%になることはありません。そのような中で、FaceMe®は現段階でほぼ100%に近い数字は出ているのですが、今回は、ほんの残りコンマ数パーセントを埋めていくための精度向上を実現したという画期的なアップデートです』

また、今回のアップデートでは感染対策にも役立つ内容が盛り込まれている。コロナ禍の現在はマスクをしている状態でも認証せざるを得ない状況だが、FaceMe®ではマスク着用時でも精度の高い認証が可能だ。

『例えば、出社時に、顔認証で入室状況と検温データを同時に記録している会社もあります。認証時にマスクをはずさなければならないようでは、感染対策上、意味がありませんので、マスクをした状態でも精度の高い認証を提供することが重要だったのです』

 

顔認証技術はスマートリテールとの相性が良い

顔認証技術はセキュリティ分野などへの活用をイメージしがちだが、実は多くのビジネスにも応用されている。

萩原氏によると、特に需要が高かったのがスマートリテール分野だと言う。

『これまでコンビニや量販店は、会員登録をしていない顧客の年齢層や性別などの属性、購買履歴などの情報を得ることができませんでした。顔認証技術を使うことで、どのような属性の顧客が何を買っているのかという傾向を知ることができるため、新たなマーケティング施策を打つことができます』

同じくニーズが顕在化しているのがデジタルサイネージ分野だ。

広告主が広告を出稿する場合、広告効果を測定することで広告の費用対効果を知ることができるが、デジタルサイネージにカメラがあれば、広告閲覧者の性別や年齢層なども把握しやすくなる。

『顔認証技術を活用することで、場所や時間帯によって表示すべき広告を変えることが可能です。カメラに映った情報をリアルタイムで取得して、その人にあった広告を表示するなど、本当の意味での1to1マーケティングが実現できることになるのです』

他にも、ある小学校では、生徒の感情を顔認証技術で分析し、問題を抱えている生徒がいないか検証する実証実験を行っている事例もある。

感情には絶対的な基準があるわけではないため、感情の数値をどのように活用するかはそれぞれの利用目的により変えることができる。

ここにサイバーリンクさんからいただく予定のソフト起動時の画像を挿入

 

顔認証技術は今後、医療現場や工場などの課題解決に役立つ

萩原氏は、今後顔認証技術の導入が進むであろう分野として、医療現場や工場での活用をあげている。

『今我々が注目している分野のひとつは医療分野です。医療現場では、有資格者でないと使えない医療機器、薬の取り扱いなど、本人確認を必要とするシーンがあります。しかし現在は運営している会社のモラルや人的な運用に任せている部分が大きい。

顔認証の技術を活用いただくことで、資格がなければ使えない医療機器などを起動する際は、有資格者がカメラの前に来ないと動作しないように設定することができます』

また、工場における労務管理の効率化という面でも活用が可能だ。

『海外では工場の受付で何千人何万人の従業員の勤怠を確認していることもあります。しかし、今コロナでこれらの状況を見直す必要がある。顔認証を使うと、ウォークスルーでそのまま誰が出社したのか履歴を残しながら管理でき、事務職の方の負担軽減にもつながります。セキュリティと利便性を同時に向上させることができます』

最後に、顔認証分野において今後若い世代に注目してほしい点を伺った。

『我々の開発している顔認証技術そのものは非常に高度なものなのですが、実際は同じ技術が一部のスマートフォンのロック解除や空港で使われていたりと、身近なところから高度なセキュリティを求められるところまで様々なかたちで導入されています。普段の生活の中で使われている技術に気づいていただく、気づくことで見えてくる世界や視野も変わってくると思いますので、そのあたりに注目していただけるとありがたいです』

セキュリティだけでなく、BtoB市場を中心に様々なビジネスを加速させるサイバーリンク。今後もFaceMe®が多くの現場の課題を解決してくれることに期待したい。

 

<プロフィール>

江連良介

ライター・編集者。1989年、北海道札幌市生まれ。政策、金融、法律、テクノロジーなど幅広い分野で執筆活動を展開。最近の関心分野はGovTech分野など。

 

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