株式会社ジョブコム編 第1話 「学生に出された2つのミッション」
◆文:矢本祥子 /動画制作:MovieAction
学生が常識にとらわれない柔軟な発想で、企業の悩みやミッションに取り組む「ミンスタ」。
若者から飛び出す思いもかけないアイデアが、企業に新企画をもたらし業界を動かす可能性もある。学生たちにとっては、新感覚アルバイトでもあり、「社会に出て仕事をする」疑似体験の場、スキルアップの貴重な機会でもあるのだ。
今回のミッションは、総合人材サービス会社である株式会社ジョブコムから。ズバリ「登録スタッフ数を増やしたい!」である。
設立20年目を迎えるジョブコムは、名古屋が本社の事務系の人材派遣会社。
その他東京、福岡に拠点を置いて、順調に業績を伸ばしてきている。
派遣会社の仕事は、働く人を探している「派遣先企業」と働く場を探している「派遣スタッフ」を結びつけること。
提携している企業から信頼してもらうためには、いかに企業が求めている人材を提供できるかがポイントとなる。
人材とは、つまりジョブコムに登録してくれる「派遣スタッフ」だ。働きたい人にとって魅力ある企業の仕事を取り揃えるのと同様に、優秀な人材の確保も大切な仕事なのだ。
この「登録スタッフ数をどうしたら増やせるか」というテーマに、学生の力を借りたい。ここから本プロジェクトは始まった。
参加者
(前列左から)ジョブコム・櫻井梨絵さん(コーディネーター)・山村欣矢さん(常務取締役)・齋藤理恵さん(営業グループ 人材派遣ユニット)
(後列左)加藤俊(ミンスタ)
(右端)ファシリテーター :石塚祐介(株式会社Ymix 代表取締役)
学生 (学年は2016年3月時点のもの)
岩廣映璃(イワヒロエリ):跡見学園女子大学 マネジメント学部マネジメント学科1年
篠原瑞季(シノハラミズキ):早稲田大学 文化構想学部 多元文化論系2年
鈴木太陽(スズキタイヨウ):日本大学 商学部 2年
永島郁久雄(ナガシマイクオ):東洋大学 経済学部国際経済学科1年
永山海斗(ナガヤマカイト):東洋大学 経済学部 国際経済学科1年
◆〝派遣〟のイメージって悪くない?
「みなさんは、〝派遣〟と聞いてどんなイメージを持っています?」
開口一番、ジョブコム株式会社常務取締役の山村欣矢さんは学生に訊ねた。
派遣切りや年越し派遣村など悪い印象もある〝派遣〟という働き方。学生の率直な印象を聞きたかったという。
「アルバイトで数日、派遣で働いたという友だちはいますよ…」
「登録はしたことあるんですけど、年齢が若いこともありなかなか仕事がまわってこなかった。あまりいいイメージはないですね」
「ホテルの中のレストランに毎回派遣される仕事をしていたんですけど、その都度違う職場なので人間関係が築けなかった。それが残念だったことでしょうか」
「みなさんが経験されているのは、単発のものが多いようですね。うちは、派遣の中でも事務系。派遣といってもいろいろ種類があるんです」と山村さん。
派遣会社によって、技術系に強い、製造系がメインなど、それぞれ得意とする職種、専門分野が違う。
ジョブコムは、事務系に特化した会社だ。
一般事務、営業事務、貿易事務、経理など。企業の中に入って、営業アシスタントとして資料を作成したり正社員のサポートをする仕事が多い。比較的長期でだいたい3ヶ月毎に契約更新をし、長い人だと3年以上同じ職場で働き続けている人もいる。
◆派遣システムのしくみ
派遣システムのしくみを簡単におさらいしよう。
「派遣先企業」は、ジョブコムと労働者契約を結び、業務を依頼する。
「派遣スタッフ」とジョブコムは雇用契約を結び、給与はジョブコムから支給。福利厚生などもジョブコムがバックアップする。ただし「派遣スタッフ」に対して、仕事に関する業務の指示をするのは「派遣先企業」となる。
ジョブコムの仕事としてはまず、派遣を必要としている企業を開拓することがあげられる。常に、ネット上などで同業他社の情報をチェックし、営業をかけ、「派遣先企業」を増やす努力を行っている。
ジョブコムでは、常時150〜200件くらい、「派遣先企業」からの仕事の依頼があるそうだ。
一方、企業が欲しい人材、ニーズもさまざまなので、その多様な要望に応えるべく幅広い人材を取り揃えるために、「派遣スタッフ」の登録数を増やす施策も常に行っている。
ネットなどで仕事の情報を流し、それを見て「この仕事をしたい!」と興味を持ってくれた人には、銀座と新宿にあるセンターに直接、登録に来てもらう。そこで、「派遣スタッフ」の希望条件をコーディネーターがヒアリング。「派遣先企業」の業務内容の確認を行い、職場訪問などを経て、うまくマッチングすれば契約成立、派遣での仕事が開始となる。
◆登録者数を増やすには?
今回、ミッションは二つある。
一つ目は「登録スタッフ数を増やしたい!」だ。
「人材を探している企業が200社くらいあっても、登録をしに来てくれる人が数十人では、いくら仕事を紹介したくてもできないですよね。その逆もしかりで、両者のバランスがとても大切なんです。今、だいたい200社くらい案件がある中で、現在、登録者数はだいたい月に200〜250人くらい」
派遣で仕事を探している方は、平均して3〜4社重複して派遣会社に登録している。その上で、いくつか紹介された仕事の中から、自分の条件に一番合うものを選んで就業している。この3〜4社の中に、中堅どころであるジョブコムが入るための施策を考えてほしい、というのが一つ目のミッションだ。
◆一番に相談してもらえる会社になる
二つ目は、「派遣先企業」からも「派遣スタッフ」からも、一番に相談してもらえる会社になること。
「ジョブコムの理念として、社員みんなで作ったミッション、ビジョン、モットーがあるんです。アイデアを考えてもらう前提として、知っておいてくださいね」
★MISSION/私たちの使命
〝自分らしい生き方〟を、一緒に、世の中へ。
★VISION/私たちの目指す姿
あなたに寄り添い、一番に相談される存在として、人と企業のこれからを応援する。
★MOTTO/私たちの行動規範
ひとに、しごとに、まっすぐに。
山村さんは続ける。「売上で一番になることはすぐには難しいが、人と人との関係、信頼を得ることにおいて、ジョブコムが一番になることは可能なんですね。『まずはジョブコムの人に相談しよう』と思ってもらえる会社を、皆で目指しています。
それは、働いているスタッフからの相談もそうだし、企業からもです。いくつかの派遣会社からスタッフが入っている現場で、たとえば『来期にこんなプロジェクトを予定していて、こういう人を派遣で雇おうと思っているんだけれど…』といった話を、担当者から一番に相談してもらえれば、我々は、他社よりも情報を早く受け取れたことで、先手を打つことができます」
これは、ジョブコムの営業担当が今、知恵を出し合って開拓している領域。マナーや知識、情報収集、マインドといった項目をあげて、喧々諤々議論を深めているところだ。
「一番に相談してもらえる会社なる」ためには、何をしていけばいいだろう?それを考えてもらうのが、二つ目のミッションだ。
◆これまで実施してきた施策
登録スタッフ数を増やすために、大手や同業他社と同じことをやっていても仕方がない。差別化するためには、どこもやっていないこと、未開拓な部分を掘り起こすことが課題となる。
「なにはともあれ、登録に来てもらうことが大事なんですね。すべてはそこから始まるので。考え方としてはいわゆるマーケティングと同じです。ジョブコムが持っている仕事を、どう求職者にアピールするかに尽きます」とは、コーディネーターの櫻井梨絵さん。
「これまでに、交通費の支給やノベルティの配布、また地方への出張登録会や土曜、夜間の登録会などを行ってきましたが、費用対効果を見て、ほぼ廃止したりしています。その代わりに、今は、対応力、サービス力の向上に力点を置いています。
たとえば、スタッフをエレベーターまでお見送りしたり、面談の際のヒアリング力を高めるためのスキルの共有やMTGをこまめに行うなどしています」
また、広告対策においても、大手や競合他社と違った手法で行うことが重要だ。年齢が高くても専門スキルを持っているといったターゲット層の絞り込みや、これまでとは違う課金型の広告媒体を利用してみるなど、また、メールなどのシステムを駆使して求職者へのアプローチ回数を増やしたりと、さまざまな工夫を凝らして、来社へとつなげている。
次に、営業グループ 人材派遣ユニットの齋藤理恵さんが、ジョブコムがベンチマークしている企業とその会社の取り組みについてお話してくれた。
「ジョブコムと同じくらいの規模のW社が業績を伸ばしている要因を分析すると、W社は『人と人のつながりはアナログであるべき』をテーマにし、派遣先企業と派遣スタッフとのコミュニケーション量が圧倒的に多いんです。
営業の業務範囲が広く、その代わり一人が担当しているスタッフ数はジョブコムよりも少ないので、おのずと細やかな対応ができているようです。
企業側ともスタッフ側とも関係性強化に力を入れていて、それが売上につながっているんですね。
また、B社は、主婦の方に特化して就業支援を行ってきた会社なんですが、TV番組などメディアを上手に活用し、自分たちの事業をアピールすることで、派遣先企業、派遣スタッフの新規獲得に結びつけている会社もあります」
◆学生たちに期待したいこと
最後に山村さんから一言。
「人材サービス業は、最終的に人対人。すごく泥臭いところがあるんですね。嫌なこともたくさんあるし、でも、その分嬉しいこともいっぱいある。
ほわっとしたきれいな感じのアイデアや、ジョブコムに対して気を使った提案はいらないです。失礼のないように、とかね。本音で忌憚のない、むしろ失礼なくらいの意見を聞きたいと思ってます。
遠慮しないでください。あとは、スタッフ側と企業担当者側の両方の立ち位置を想像しながら考えてもらえれば。企業側の気持ちをイメージするのは難しいとは思いますけれど」
◆アイデアは100個は出そう!
ファシリテーターの石塚祐介さんから、アイデアは少なくとも100個以上出そう!また、マーケティング用語「AISAS(アイサス)」を意識して、順番に出していこう!といったお話があり、学生のブレストに突入。一部の発言を抜粋しておく。
※Attention(気づく)→Interest(興味)→Search→(検索)→Action(行動)→Share(情報 共有)
→石塚さんは、今はSearch(検索)はCheck(チェック)、Share(情報共有)はSpread(拡散)
ではないかと発言していた。
「派遣会社で重要なのはクリーン性かもしれない。安心感がないとこわい」
「TVなどスコミに載っているかどうかは大事?」
「このターゲットを取り込みたいから、このアプリを使っている人向けにアプリの下の広告とか」
「口コミ、やっぱり友だちからの情報が、一番信頼性が高いなぁ」
「渋谷の交差点の大画面って、つい時間があると見ちゃわない?」
「飲み物に付けられないかな?キャップにめくるシールを見て登録に来てくれた人にプレゼントとか」
「LINEのスタンプ作戦。スタンプが欲しいから、一度は登録するよね」
「スタップ取ったら、すぐに削除してしまうけど…」
「私は、罪悪感があってブロックできなかったりするよ」
「電車のつり革とか、何も考えずに見てる気がする」
「王道だけど、ハローワークなど安心感のある場所にフリーペーパーを置くのはどう?」
「ドラマで女優が来ていた服がすごい売れたり。ドラマ内で、俳優がジョブコムと絡むとか」
「感動するCM。何をしているかわからないものも多いけど、気になっちゃうよね」
「ジョブコムの社員など、中の人がどういうことをしているかを発信するのは?信用にもなる」
「ジョブコムのサイト、きれいだよね。サイトってけっこう大事。安心感が違うような」
「それって、Interest(興味)の先の話かも」…
石塚さんからは「PRなど広告ではないアイデアも考えてみて。B社がメディアに取り上げられている理由を考えてみてもいいかも。
今、PRとして取り上げられやすいのは、シェアリングエコノミー、社会貢献、地方活性の3つなんです」と助け舟が。
今後、日をあらためてアイデア会議が行われる。次回は、プレゼンの様子をお届けする予定だ。