東立電機株式会社
「ヒーターを使った新商品を開発せよ」第1話
◆文:菰田将司
企業から与えられたミッションに、学生が取り組む新感覚アルバイト「ミンスタ」。
今回は電気部品メーカーの老舗、東立電機株式会社からのミッション。一般消費者には馴染みの薄い「ヒーター」の新しい活用法に、大学生達はどのようなアンサーを示すのか。今回は第1回として、初回ミーティングの様子をお届けする。
今回のミッションに参加する学生
東立電機さんとは?
「硬い業界に柔らかい考えを持ち込みたい」
東立電機株式会社の創業は昭和15年。それから75年、特に工業用ヒーターの開発・生産を行っており、独自の技術力と開発力で、業界に確固たる存在を示している会社だ。
加藤貴久さんが、親の跡を受けて代表取締役に就いてから5年目になる。現在45歳、アメリカへの留学の経験を持ち、業界に新しい風を送り込もうとする新進気鋭だ。
「まあ、ウチの会社は煙たがられてるなあ、という気はしています。私も業界の慣例とか知りませんでしたし(笑い)。業界の異端児、という感じでしょうか」
と加藤さんが話すのには理由がある。
ヒーターは実に様々なところで利用されている。炊飯器などのキッチン用品やストーブなどの家電、巨大なものになると工業用の金属製成形機の加熱器。他にもプラスチック製品を金型に入れて成形する際、プラスチックを溶かすためにもヒーターは利用されている。非常に裾野の広い商売だ。
「しかし、だからこそ保守的な傾向が強い企業が多い業界でもあるんです。常に需要があり、こちらから新しい用法を提案しなくても、顧客の要求に応えてさえいればビジネスになるというか。これまではそれで充分に採算がとれてきたんです。
でも近年は環境が変わりました。中国から安いヒーターを作るメーカーが入ってきた時などは、多くの企業が少なからず動揺しました」
加藤社長が保守的な業界で強気に出られるのも、持っている技術に自信があるから。
そもそもヒーターって?
「皆さんの中で、ヒーターとはどういうイメージでしょう?
電気ストーブの中に見える赤くなっているところ?確かにあれもヒーターの一種です。ヒーターとは、端的にいえば電気を熱に変える部品の総称です。金属には電気が流れにくい。そこに電圧をかけ、無理に中を通すことによって抵抗が発生し、熱が生じる。
基本構造はそれだけのシンプルなものです。しかし、見てくれや仕組みによって多種多様なヒーターがある」
東立電機株式会社が主力としているのは業務用のヒーター。特にデパートのトイレなどで使われる、すぐにお湯が出てくる蛇口に使われる電気温水器のヒーターのシェアは5割を超える。
「ウチの会社は製品内部の部品を温めるヒーターが得意分野。これらは温めるモノの条件で材質や、設定温度、時間などを細かく設計しなくてはなりません。特にウチが自信を持って推しているのがシーズヒーターです。
これは、通電すると高温になるニクロム線を金属管に入れ、その中を独自の方法で固めた絶縁粉末で満たしたもので、外からの衝撃で破損・故障する心配がありません」
シーズヒーターはコストパフォーマンスがよく、大量生産に向いていて、また加工が容易で色々な形を作れる特長がある。ゆえに業界内でもシーズヒーターは主流で、様々なメーカーで作られているのだが、加藤社長は「ウチは全ての部品を内製で作っているので、部品の調達ができないというトラブルはないし、また一から要望に応えた商品を開発することができる。それが大きな強みです」と話す。
「ウチは部品メーカー。パソコンでいえば、中身を作る会社。だからパソコンのガワ(外側)から変えて新しい商品を作り出すのは難しい。……そういった制約の中から、新しい製品を考えてもらいたい、というのが今回のミッションです」
ヒーターの業界は保守的。そこに独自の技術で斬り込むために、加藤社長は若い感性を求めた。
「よく言えばマジメ、悪く言えば閉鎖的な業界です。だから突拍子もないことを考えても面白いなと思っています。しかし、長くこの業界にいて硬くなった頭では、なかなかアイデアは浮かんでこない。
……私が期待しているのは、使う人が、自分の生活スタイルから選ぶような、そんな製品です。
特にキッチン用品。キッチンにはホットプレートやトースターなどヒーターを使うものが多い。キッチンにそれが置かれるだけで、キッチンの色や空気が変わってしまうような、そういうアイデアが欲しい」
……社長の希望を具体的なカタチにしていくために、二人の若いアタマが動き出した。
【Question & Answer】
「シェアは? 形状は?」矢継ぎ早に飛ぶ質問に応える加藤社長
立岡:新製品を考える上で理解しておかなければならないことはありますか? また、形状によって機能に違いは出るのでしょうか?
加藤:形状によって機能は大きく変わります。そのことは理解しておいてください。営業や新入社員が一番苦労するのもそこです。これ、と決まっていることはないですが、この大きさではこの温度が限度ですよ、という制限はあります。
パワーや形状・材質など幾つかのポイントを複合的に判断するものなので、逆にアイデアを見てからこちらでベストの形状を考えます。
城間:作ることができるサイズは?
加藤:生ゴミ処理機用のものに、長さ150㎜、200度まで上がるものがあります。それが最小で、最長では4mくらいかな。温度は、上げようとすれば900度くらいまでは上げられます。ニクロム線の限界が1000度くらいなので。800度を超えると真っ赤になりますよ。
以前は、三菱電機さんからの受注でミニキッチンのコンロ用にたくさん卸していました。今はIHが主流になってしまったので、数は減っています。
……ヒーターはIHに比べて半額ほどのコストで作れ、丈夫で、いろいろな形に変えることができるという大きなメリットがあります。またIHは構造的に電磁波が出るので、それをいやがる人も多い。
城間:中身の部品は、普段意識していないので、とても面白いです。ただ、あまり目立つモノでもないので、合コンとかで自分の仕事をどう説明していたんですか?
加藤:色々と苦心惨憺した挙句、ホットプレートの中に見える、熱くなる棒を作ってます、というと「ふーん」と言ってもらえるようになりました(笑い)。
もっと分かり易くしてアイロンの中の部品とか。そのくらいしか説明のしようがないし、話が広がらなかったね。ただ、これからオシャレなデザイン家電の中に……となっていけば、女子も興味を持ってくれるかもしれない。
目を引くコーヒーメーカーとか、女子が興味を持つ製品も提案してもらいたいな。
立岡:どの程度の時間で温かくなるのでしょう? あと、自分は以前バーベキュー場で働いていたのですが、炭を熱くするのに時間がかかり、しかも温度を維持するのが難しかったのを覚えています。そういうものに使うことはできるでしょうか?
加藤:実はもう、バーベキューコンロは展示用に作ったことがあります。その時は一つの種火としてヒーターを使っただけでしたが、炭の熱をキープできるように温度制御のコントローラーを付けることもできます。そうすれば、初心者でも温度の維持が簡単になるのではないでしょうか。
熱くなるまで5分くらいは見てもらいたいのですが、まあそれもやりよう。もっと早くもできますが、そうなると熱くなり過ぎたり、電力を多く使い過ぎたりしてしまうので注意が必要ですね。
設定温度をキープする機能を付けるのは簡単ですので、そういう機能を必要とするものには取り付けられます。
城間:どうして僕たちに新しい製品を、という話になったのでしょうか?
加藤:現在、ウチは電気温水器や業務用厨房機器がメインの商品です。また、今後はプラスチック成形機にも力を入れ、現在3割くらいのシェアを持つプラスチックの乾燥処理用ヒーターも伸ばしていきたいと思ってます。
ただ、こういった業界内の問題もあるのですが、社内ではどうにもならない手詰まり感もあり、ブレイクスルーを、と考えていました。今、新しい人脈も広がり、こうやって若い人とも話が出来ている。イケるな、と感じています。
「保守的だからこそチャレンジのしがいがある」
「いずれ、全てウチの製品のシステムキッチンとか作りたいですね」と話す加藤社長から与えられた今回のミッションは「置くだけでカッコ良くなるモノ」。
質疑応答の途中からもう、「最近日本酒を飲む女性も多くなってきている。以前業務用の熱燗マシン作られていたのなら、これをバーとかに置いても遜色ない、オシャレなモノにしてみては」など、様々な意見が生まれてきていた。
現在あるもののデザインなどソフトの部分をカッコ良くしていくのか。それともハードな部分から全く新しい使用の提案をするのか。
次回は彼らのプレゼンの様子をお届けする。
(第2回へ続く!)