アバター接客とAI顔認識の可能性。AIと人のハイブリッド接客とは

店舗での接客業務を遠隔で行う実証実験が各所で始まっている。アバター接客は、新型コロナウイルス禍の対面機会を減らすことに加え、テレワークを続けたまま接客勤務に携わることができる画期的なテクノロジーだ。さらにこれらの接客時の情報をビッグデータとして蓄積して活用すれば、サービスの質向上やマーケティングにも役立つ。アバター接客の現状を追ってみよう。

 

アバター接客とは何か

アバター接客は、店頭で来店客からの質問や相談にディスプレイに表示されたアバターが対応するシステムだ。これだけ聞くと「いわゆるテンプレートの自動回答システムでしょ?あれだと本当に知りたいことが結局わからないんだよね」と思う方もいるかもしれない。

アバター接客は従来のチャットボットやIVRのように、お客様からの質問を整理仕分けし効率的に対応するためのサービスとは異なる。画面にはアニメーションで人の顔が表示されているが、実際に喋っているのは人間のオペレーター。つまり、アバターを介した人による遠隔接客を可能にするシステムだ。

遠隔接客のメリットの一つは、コロナ禍において人の対面接触を減らしテレワークで販売員の勤務を継続することができることだ。小売店によっては「店員への声かけは極力ご遠慮ください」といったアナウンスをしているところがあるが、お客様にとっては代替手段がなければ店員に声をかけざるを得ない。また、アバター接客を導入すれば出勤する店員が少ないことで店舗の密が軽減され、お客様が安心して来店することができる効果もあるだろう。

 

接客の質を高めるアバター接客

アバター接客の効果はコロナ禍における課題解決に留まらない。対面で行われていた従来の接客よりも顧客体験を向上させることが可能だ。

アバター接客の裏側にいるオペレーターは一人とは限らない。複数人のオペレーターをお客様の質問や要望に応じて切り替えることで、顧客の課題解決をより正確にスピーディーに行うこともできる。従来の対面接客では、知識量や得意なカテゴリーが販売員によって振り幅があるため、店舗のリソース状況によっては満足いく接客が受けられないことがあった。さらに、一対一の対面接客では混雑時に待たされることも多い。お客様の求めに応じて適切なスキルのあるオペレーターを割り当てることで、対応の正確さや速さが高まる。

加えて注目すべきはディスプレイ上で様々な画像を表示することで、口頭よりもわかりやすい説明・提案が可能であることだ。複数の商品の比較提案、店頭にない商品の提示、さらに動画等を組み合わせた利用イメージの伝達など、従来の対面接客では難しかった深度のある顧客体験ができる。

消費者が実店舗を訪れるメリットは直接商品を見て手に取れること、その場で商品やサービスを購入できることだった。アバター接客を導入することで、従来のメリットはそのままに顧客体験の向上が実現する。さらに、店舗側にとってはコロナ対策、業務効率化、売上向上等につなげることができ、経営改善やキャッシュフローの最適化が進むだろう。

AI顔認識システムで接客業務の科学的な改善が可能に

さらに、オペレーター側の接客業務の改善に役立つのがAI顔認識システムだ。AI顔認識システムにより、接客を受けるお客様の表情から感情を分析できる。

これらの感情データや性別年代等を収集・蓄積することで、接客の精度を上げるのみならずマーケティングに役立てることが可能と考える。AIが正確なデータを効率的に収集することで、客観的に評価し、業務効率の改善につなげることができるようになるだろう。。

東急ハンズの実証実験で採用された「FaceMe®」とは

アバター接客とAI顔認識を組み合わせた店頭での運用事例として、株式会社東急ハンズと株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下NTTデータ)が共同で行った実証実験が挙げられる。

この実験は2020年6月1日から15日にかけてまず東急ハンズ渋谷店で行なわれ、さらに2020年10月16日から12月15日までの約2か月間に東急ハンズ渋谷店、新宿店、池袋店、梅田店、博多店の3都市5店舗にて拡大して行われた。スキンケア商品と加湿器コーナーに設置されたアバター接客を体験した客からは「店員より話しかけやすい」「説明と補足画像がセットになってわかりやすい」という声が多く聞かれた。

東急ハンズは「ヒント・マーケット」を提唱しており、ユーザーに暮らしのヒントを与え、ユーザーから明日のヒントをもらうという双方向のコミュニケーションの加速を目指している。アバター接客は双方向コミュニケーションのハードルを下げ、結果として消費者の店頭購入を促進するはずだ。

この実証実験においてAI顔認識システムとして採用されたのが、サイバーリンク社が開発した「FaceMe®」だ。FaceMeが今回提供した機能はAIによる感情読み取り。画面でアバターと向き合った客の表情・年齢・性別を取得しデータを蓄積する役割である。取得したデータはNTTデータのシステムでで解析され、サービスの改善やマーケティング戦略に役立てることが可能だ。

具体的な強みは顔の傾きや眼鏡、髪型、ヘルメットなど顔認識がしづらくなる要素があっても読み取れることだ。特に顔の傾きについては他社製品では正確に読み取れる限界が30°〜45°のところ、FaceMeでは60°まで可能。サイバーリンク社が培ってきた画像をトラッキングする技術力が生かされている。

サイバーリンク社が顔認証で実現する未来

上記で紹介した実証実験においてはFaceMeが提供したのは顔認識の機能だが、サイバーリンク社ではさらに広範な顔に関わるテクノロジーを開発提供している。

パスワードとしての顔認証では高精度の読み取り機能のニーズは非常に高い。金融関係のクライアントに関しては顔認証や指紋認証、手入力パスワードを組み合わせた高セキュリティソリューションの提案を行っている。

また、eKYC(オンラインでの本人認証)の分野でもサイバーリンク社は強みがある。顔認証の精度の高さに加えてソフトウェア自体になりすまし防止機能を搭載しているため、専用のカメラを導入する必要がない。また、多様なプラットフォームに対応しているため、企業の規模や業種、IT環境の状況等に関係なく柔軟に導入を検討することが可能だ。

サイバーリンク社が提供するFaceMeをはじめとしたAI顔認識・顔認証システムは、今後の店頭サービス等のコミュニケーション分野、セキュリティ分野でさらなる存在感を放つことになるはずだ。AIの精度の高さは人間の認識能力を大きく超え、サービス自体や情報収集の可能性を飛躍させる。